バン受難の日

 

 

 

 

 

いろんなことが、重なってそれは起こった。

 

 

 

「はっくしょん!」

バンが大きなくしゃみをしたのに、センは思わず顔を顰めた。

「バン、風邪?」

そう言いながら少しずつ遠ざかっていくセンに、

バンは酷いなぁ、と言いながら鼻を擦った。

「ジャケット洗濯したら、乾かなくて・・・・

今日一日この格好で居たら・・・なんかゴホ、ゴホ・・・・」

「あーあ、立派な風邪じゃない、そんな薄着してるから」

そう言って、センは自分のジャケットを脱いでバンに渡してやる。

「え、何、いいの?優しいじゃん」

「まぁ、風邪うつされたら困るからね」

「素直じゃないなぁ」

「そういうことにしておこうかな」

にっこりと笑顔を返されて、バンもサンキュ、と笑った。

仲間ってやっぱりいいなぁ、なんて思いながら。

「じゃあバン、メディカルルーム行ってきなよ。

もう声だって変になってるし」

「嘘、俺声変?」

「うん、誰だかわかんないくらい変」

「・・・・まじかよ、じゃ早速行ってこよ〜」

「ボスには言っておいてあげるから、安心して行ってきなよ」

「サンキュ、センちゃん」

センの優しいお言葉に甘えて、バンは早速メディカルルームへと向かった。

 

 

同じ頃、ホージーは最悪の事件に頭を悩ませていた。

「・・・・困ったなぁ」

デカベースの廊下を歩きながら、ホージーはため息とともに思わずそう呟いた。

発端は今日の朝。

「し、しまった・・・・」

顔を洗っていたとき、つい用意していたコンタクトを腕でぶつかって水と一緒に流してしまった。

「・・・・・・・替えが無いのに」

それだけでも最悪なのに。

「仕方ない、メガネにしよう・・・」

そう思ってメガネを探そうとするが。

裸眼では両目とも0.1以下であるホージーの目は、

メガネを的確に見つけることが出来なかった。

しかももう出勤時間が迫ってきている。

「くそ・・・・」

と言うわけで、今日のホージーは裸眼で出勤中なのだ。

仕事も一応してみるが、何にも見えなくて失敗ばかり。

パトロールは今日の担当じゃないものの、

たまりに溜まった書類の整理も、毎日のメンテも、射撃の練習もできない。

「・・・はぁ」

またため息をつきつつ廊下をとぼとぼと歩くホージーの目に、

ふと目の前にいる誰かの姿が映った。

誰・・・・?

そう思いつつ目を凝らせば、どこかで見た制服。

しかもなんとなく緑色の制服のようだ。

「セン」

弱った心に恋人の存在は非常に嬉しい。

思わずホージーはその後姿に向かって全力で駆けていった。

 

 

デカグリーンの制服は、きちんとバンの体を温めてくれて。

(センちゃん・・・優しいときもあるんだなぁ)

そんなことを思いつつも、体の調子は悪くなる一方で。

ゴホ、ゴホ、と咳きもさっきより酷くなってきている。

「あ゛〜」

声を出してみれば、自分の耳で聞いてもさっきよりおかしかった。

しかも喉が痛くて満足に話せない。

「も゛・・・さ゛い゛あ゛く゛〜」

そう呟いたとき。

急に後ろから何かが自分に向かって突進してきた。

(な、なんだぁ?)

突進してきた塊は、腕を伸ばして体に抱きついてきた。

女の子にしては背は大きいし、でもこんなことを自分にしてくる人物の顔なんか思い当たらなくて。

振り返ろうとしたそのバンに、とても信じられない人物の信じられない言葉が聞こえてきた。

「セン・・どこ行ってたんだよ」

どう聞いてもその声は愛する相棒のもので。

でもその相棒の言う人物は自分のことではなかった。

間違うはずなど無い、だって俺は赤座伴番なんだから。

制服は確かにセンちゃんのだけど、髪形だって違うのに。

一体何が起こっているんだ???

バンは今までに無いくらい頭をフル回転させたが、何も解決には繋がらなかった。

 

 

「セン?」

どうも反応の薄いセンを更にきつく抱きしめても、何にも反応がない。

あ、まさかこんな堂々と廊下で抱きついたから怒っているのか?

確かに俺もどうかしてたんだけど・・・。

そんなことを思い、ホージーはぱっと体を離した。

そうして、多分センの耳がある辺りに口を寄せて

「ごめん、怒ったか?」

と囁けば、センは驚いたように体をビクっと体を震わせた。

「・・・なんだよ、変な奴」

そう笑いながら、センの手をそっと握り締めて。

「今日俺、ついてないことばっかりなんだ。

でも、やっとお前に会えたことで少し救われた」

そうわずかに微笑めば、センの息を飲む音がした。

しかもわずかに身をひいている。

「なんかお前変だな、どうかしたか?」

そう尋ねても、反応がない。

本当に何かあったのか、ホージーは疑問に顔を顰めた。

 

 

(な、何が起こってるんだー!!!)

バンの頭の中は未だかつてなくらいパニックしていた。

何故ホージーはまだ人違いだって気付かないのか。

それよりも・・・こんな可愛い顔されちゃあ。

心臓がさっきから収まらないよ!

センちゃんの奴、うらやましい〜・・じゃなくて!!

このままじゃ駄目だと、何か言おうと口を開いたけれど。

「ゴホ、ゲホ、ゴホっ」

咳しか出ない・・やばい、これは。

「おい、セン・・お前風邪を・・・・?」

心配そうに見上げてくるその瞳に、吸い込まれそうに・・わー駄目だ!

やめてくれよ、そんな目!

そんな可愛い顔されるとー・・・!

我慢できなくなって、ついその体を抱きしめれば

ホージーは具合が悪そうに見えたのか心配そうに背中に手を回してきた。

「セン、セン・・大丈夫か?」

そうして、バンの頭にそっと手を添えて・・・何をするのかとバンが思ったその時。

こつん。

そんな音を立てて、バンの額にホージーの額が触れた。

間近にあるホージーの顔に、バンは一気に赤面する。

「んー・・熱がある。少し休んでこいよ、ボスには俺が言っておくから」

にっこりと笑って、腕を絡ませて。

「俺が連れてってやろうか?・・ああ、お前のことだから俺に移らないか心配か?

大丈夫だ、俺頑丈なんだから。

それよりも、早く治せよ?治らないと何にも出来ないしな」

そんなことを言って、別に何も言ってないのに、

「・・あ、『何にも』って・・別にやらしい意味じゃないんだからな」

なんて顔を赤らめられてしまっては。

あまりの可愛さに、バンはまた顔を更に赤くした。

センちゃんって、あまりにも幸せ者じゃあないんだろうか。

・・・うらやましすぎる。

「お前は俺が看病してやるよ、嬉しいだろ?

お前のことだから嫌がるだろうけど、いつもみたいに俺以外の奴になんかさせたら怒るからな。

ジャスミンとかウメコとか、スワンさんにとか・・・・嫌だから」

なんだよ、そのわがままは!

可愛いじゃん、我侭言う相棒も!

しかもいつもみたいに・・てことは、いつもは相棒に看病させないのか、センちゃん。

そんなもったいない。どうして?

「移したって、別にいいし。

ほら、人に移すと早く治るって言うだろ?

辛そうなお前見てるの、俺も辛いから・・・」

今度はしゅんと俯いてしまった。

そんなホージーを、抱きしめずにいれる奴がいるのだろうか。

バンも例には漏れず、思わずその肩をそっと引き寄せた。

もうどうしよう、このままなんかしちゃってもばれないのかな。

何故かホージーは未だに自分がセンではないことに気付かないし。

バンの心に、悪魔が生まれてくる。

「どうせなら、今・・・移してみるか?」

なんてホージーが言いながら悪戯っ子の目をして見詰めてくるから。

つい、キス・・しちゃおうかなーなんて思ったけど。

俺が、もしセンちゃんだったら

センちゃんの立場だったら

相棒に風邪が移ったら嫌だなぁ。

どんなことしても、移らないように相棒を遠ざけるかもしれない。

相棒の辛い顔見るの、辛いのは一緒だろう。

そんな時、ふとセンちゃんのさっきの言葉がよみがえる。

『風邪移されたら、困るから』

あれは、本当にそういうことだったんだ。

風邪引いたら、自分の辛そうな顔見て相棒が心配するし、

もしかしたら相棒に移っちゃうし、だから移されたくないって。

わー、酷いなぁ。センちゃんったら相棒のことしか考えてないんじゃん。

でも、許したげるけどね。

大事な人しか見てないなら、いっか。

相棒しか見てなくて、いつも相棒のこと思ってるんならいいかぁ。

こんな可愛い相棒を、悲しませたりなんかしたらやっぱり俺怒るから、だからそれでいいんだね。

バンは、そっと自分にキスを仕掛けようとするホージーの胸あたりに手をかけて押しのけた。

『移らせたくないんだよ、俺だって』

そう言いたかったのに、出るのは咳ばっかり。

『相棒が大事なんだよ』

そんな思いを乗せて、その額にキスをしてみたら、

愛しい相棒はにっこりと笑って、やっぱり、と呟いた。

「お前は、昔からそうだな・・風邪引くと俺を遠ざける。

それがお前の優しさなんだって、知ってるけど・・・」

『可愛くない』と頬をつつかれてしまって、バンは苦笑した。

うらやましいよ、センちゃんが。

それに、相棒も。

二人の男からこんなに大事に思われてるなんて、なかなか無いぜ?

でも、やっぱりそんな相棒に、こんなにも愛されてるセンちゃんのほうが

 

・・・・・・やっぱりうらやましい。

 

なんて、センチなことを考えてた・・・・・・・・そんな時。

 

 

「バ――――――――――――ン―――――――――――――――」

 

「ひえ・・・」

バンはあまりの怖さに、すくみ上がった。

来た、来ちゃったよ・・・お約束のあの人が。

「よくも、人が心配して後を追ってきてあげたのに人のもんに手ぇ出してくれたね」

「だ、出してないよ!センちゃん・・・ゴホ。ゲホ」

「んん?」

ホージーも、ようやく異変に気がついたのか、見えない瞳で周りを見渡す。

そんなホージーを見て、センは一瞬でその異常を察した。

「宝児、コンタクト落としたの?」

「え?あ、あぁ・・そうだけど・・・お前・・・・・・・・」

「宝児、俺はこっち。そっちは、バン」

「は?」

「宝児、俺は、こっちだよ」

「・・・センがあっち」

「そう。それで、今宝児が抱きついてるのが」

「・・・・・・バン」

「そういうこと。おいで」

その声に、ホージーは思いっきり顔を赤くして

「バンの、馬鹿!!!!!!!!!!」

と言いながらその顔を思いっきり平手で叩いた。

衝撃に倒れそうになったバンを無視して、ホージーは早足でセンの元へと賭けていく。

「お、俺ともあろうものが・・・間違えた?」

「んー・・まぁ、視力無いし、バンは俺の制服着てるし、しかも声はがらがらだし。仕方ないけど。

何にもされてない?大丈夫だった?」

「う、うう・・セン〜」

「何、泣きそうな顔しないでよ、俺はちゃんと居るでしょう?

風邪もひいてないよ。今度は間違えないでね?」

「・・・・・・はい」

「あ、もう間違えないよう今日は俺と一緒に居なよ」

「うん、・・・居る」

「マシンブルで一緒にパトロールしよっか、ついでにコンタクト買ってきたらいいよ」

「うん、そうする」

「弱ってるねぇ、大丈夫?」

「・・・大丈夫」

「あと、風邪移らないようにうがい手洗いね」

「あぁ、もちろん。バンの菌が移らないようにな!」

バンをキッと睨んで(もちろんバンに向かってのつもりが壁を睨んでいたけれど)立ち去るホージーに

バンは叩かれた頬を押さえて、泣きそうになる。

「う、俺・・・・どっちかというと被害者だと思うんですけど〜・・・・」

触らぬ二人に祟りなしよ・・・。

一部始終をどこからか見ていたジャスミンがすっとでてきて、そんな言葉を言いつつ

「バン、貴方って・・・・・・本当に、可哀想」

哀れみを含んだ瞳で思わずそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

数日後。

あれから高熱を出してしまって寝込んでいるバンの元に。

ウメコが運んできたお見舞い品の中に

一つだけ、とても質素に、ぽつんと何の飾りも無い

氷枕と、ひえピタと、綺麗な形の林檎が2つあって。

そしてその林檎にマジックペンで

『口止め料。センになんか言ったら殺す』

なんて可愛くない言葉と、

『書類がたくさん待っているから早く出て来い』

なんてもう一つの林檎に書いてあって。

それを見たバンはまるで林檎のように顔を真っ赤にして、

それでも嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなバンは紛れ込んでいたセンの送ったわら人形にはまだ気付いていないのであった。

 

<あとがき>

↑上の一文いらねぇ・・・とか思いつつ。

セン様はお怒りですのよと。

しかもそのわら人形には

『宝児に手を出したらどうなるか、わかってるよね』

とかって紙が釘で刺さってるんだよきっと。(怖いな)

 

884君のカレンダーのプロフィールのとこに書いてあった

視力が0.1以下だというのを見て思いついたネタです。

いや0.1以下でもそこまで見えなくは無いと思うんですけど。

ま、捏造小説と言うことでご勘弁・・・・・・・・・・・。

っていうかバン・・・・・・・可哀想過ぎるよ。

バンファンの方、ごめんなさい。

最後に救済してみたつもりですけど

セン様のわら人形で意味無く・・・・・・・・・・・・・。あああ

すいませんでした・・。

あ・・・・・・・題名無理やりですいません。

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