春眠暁を覚えず。

 

そんな例にも漏れず、センは出勤前だと言うのに

未だぬくぬくの布団に包まって夢見心地だった。

春は何故かやたらと眠い。

もともと寝起きの悪いセンにとって、春は最大の敵だ。

起きようとするのに体が鉛のように重くて動かない。

目を開けようとしても、開けたはずの瞳は重くまたすぐに閉じてしまう。

しかもおかしなことに

『遅刻一回くらいしたって、どうってことないかも〜・・・』

なんて、変な考えが浮かぶのは恐らく全国共通だと思う。

ああ、でも・・だめ、だめ・・起きなきゃ・・起きなきゃ・・・起き・・・・・・。

起きなきゃと考えながら、徐々にセンはまた夢の中へ引き戻されかける。

そんな時、丁度センの耳に聞きなれたあの人の声が聞こえた。

 

 

「起きろ!セン、時間だぞ?」

 

 

そう、その声の持ち主は同僚でそして『コイビト』でもある最愛の戸増宝児であった。

合鍵とパスワードを知っている宝児は、なんの躊躇もなくセンの部屋に出入りする。

それは二人の親密さを如実に表すものだが、それは今のところ関係ない。

ホージーは寝起きの悪い彼氏が、出勤時間近くまで起きてこないようであれば毎朝でも起こしに来ていた。

いや、たまに(というかほとんど)同じベッドで寝ていた早起きの宝児が起こすことが多いのだが

今まで書いてきたとおり今日はいろいろな事情が重なって違った。

だから、ホージーはやっぱりどうしてもセンの様子が気になって仕方がなかった。

あいつ、ちゃんと起きただろうか。

いや絶対起きてない、確実だ。

あいつ、俺が居なくちゃ駄目なんだよな・・やっぱり。

もう、センの奴・・手のかかる・・・。

そんなことを一人ごちて(ノロケて、とも言う)

ホージーは少し上機嫌でセンの部屋にやってきた。

そしてホージーはセンの耳元で何回か同じようにそう呼びかけてやる。

今のホージーの語尾が少しだけあがっている機嫌のいいうちに起きておけば何の問題も無いのに。

駄目だ・・眠い。

センは、覚醒しかけた意識をやっぱり手放した。

「・・・・あと、ごふん〜」

「それ、寝坊するやつが必ず言う台詞だぞ」

「・・・・・」

「こら、寝るな!」

宝児の顔も見たいし触りたいけれど今は睡魔の方が勝ってる。

ごめん、だけど眠いんだよう・・・。

センは薄れゆく意識の中でそんなことを思った。

「あ、セン!寝るな、寝坊だぞ、遅刻だぞ!」

「ん〜・・・・・・」

「・・そんなセンには幻滅するなぁ」

「そっ・・それは嫌〜・・・!」

センはそんなホージーの言葉にショックを受け、

目は閉じたままだったがなんとかうつ伏せの状態から腕だけで体を起こそうとした。

ぐぐぐ・・と少しずつ起き上がるセンを、宝児は期待を込めた目で見詰める。

「せ、セン!頑張れ、もう少しだ!」

「う・・うう・・・・・」

「起きろー!」

「う、うあ〜!」

ボフン!そんな音と共に、センは布団にそのまま倒れこんだ。

思わずホージーもため息をついてしまう。

「あーあ・・あと少しだったのに・・・・」

「もー駄目だぁー・・眠い」

「あ、布団を被るな!そして寝る体勢をとるなってば!」

「・・・もーほっといて・・・・・」

「セン、そんなこと言っていいのか?遅刻したらボスの雷が落ちるぞ?

この前だってバンが遅刻してあんだけ説教食らったばっかりだろ、そこにお前まで遅刻したら・・」

「ぐー・・・・・・」

「こら!人の話を聞きながら寝るな!!!!」

「・・・・・んー・・」

「んーじゃない!甘えたって駄目だぞ!

なんでお前はいつもいつもこうなんだ。

いつもはほんとプロだなって思うくらいしっかりしてるのに・・・」

「えーほんと?嬉しいなぁ〜・・・・」

「・・そういうとこだけはちゃんと聞いてるんだな、お前」

「もぉ、ほーじもいっしょにねよーよー・・きもちいーよー」

「全部ひらがなで聞こえるぞお前。しっかりしゃべれ、つか起きろってば」

「ほうじぃ〜・・ゆるしてぇ?」

ちょっと甘えて舌っ足らずにそう言って、枕を抱きかかえて薄目を開けそう言えば

ホージーは驚いたように少し後退した。

「うっ・・甘えるな!甘えたって駄目だって、可愛いけど!駄目!」

「顔赤いくせに・・・」

「目を閉じてるくせに見えるか!!!」

「ということは図星だね」

「・・・・・お前ほんとはちゃんと起きてるんじゃないか・・?」

「ぐー・・・」

「寝るなってば!」

「宝児〜大好きだから寝せて〜・・・」

「大好きなら起きてください仙一くん」

「宝児、愛してる愛してる愛してる〜・・・から許して」

「はいはい、・・・俺も愛してるから起きろ」

「え、マジで!嘘!初めて聞いた!すっごい嬉しいんだけど!」

「あ、目開いた!よし、その調子・・」

「けど駄目―・・・・」

「お前一体どれだけ眠いんだよ!!!」

半分キレたホージーは目をまた閉じてしまったセンをぐらぐらと揺すってみるが、全く起きる気配は無い。

はぁ、と大きなため息をついてホージーはセンの頭を軽くぺし、とはたいて呟いた。

「お前は一体どうしたらちゃんと起きるんだ・・・」

「んー・・・いつも言ってること言っていいの?」

「予想はつくけど、言ってみろ」

「・・ちゅーしてくれたら起きる」

「・・・・やっぱり」

この台詞は恋人の居る人ならきっと一回は言ってみたい台詞だろう。

センも例には漏れず、ホージーが起こしに来るたびそんな事を言っていた。

宝児からちゅーしてもらっちゃったら一発で目が覚めちゃうよ、と。

その度、ホージーは呆れたようにため息をつきセンに枕を投げつけたりするだけだったけど。

それでも懲りずにセンはそれを言い続けている、そして今日も。

「・・・・懲りないなぁ、お前」

「懲りないですよ〜だ」

「・・・・・」

「・・?」

「・・・・・・・・」

「宝児?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

急に黙ってしまったホージーを不思議に思ったセンだが、どうにもこうにも瞼が重い。

もしかして呆れられて嫌われてしまったのでは、と不安になったセンは

意を決して目を開け起き上がろうとした、が。

何故か、センは起き上がることはできなかった。

それどころか、動くことさえできなかった。

何故かというと、どっかの誰かさんがセンの上に覆いかぶさっていたからだ。

 

しかも、そのセンの唇には

 

なんとその誰かさんことホージーの唇が、重ねられていた。

 

 

「んん?!」

驚き、目をパッチリと開けるセンの目に飛び込んできたのは

長いまつげと、少し潤んだ伏せ目がちな瞳と、うっすら上気したピンク色の頬。

そして唇に押し当てられたホージーの唇はいつもより雄弁に動き

まるで全て喰われてしまうかのような激しいもので。

息もできない、センは苦しげに眉をひそめた。

けれど、そのキスから引き起こされる快感はすさまじい。

相手が『戸増宝児』であることと、その宝児からの激しいキス。

それが揃っていて、目が覚めずにいることなんか出来る訳もなかった。

舌が差し入れられてきて、驚いて身を引いたセンをそれでもホージーは追いかけてくる。

朝から刺激が強すぎるよ・・!

内心焦りつつもがっしりと頬を両の手で掴まれているセンは、大人しくされるがままになるしかなかった。

舌で咥内を好きなように貪るホージーの表情は心なしか楽しそうだ。

はぁ、というホージーの荒い息遣いが聞こえて、センは胸の鼓動が早くなるのを感じた。

やっばい、なんかドキドキする・・・・。

異常なまでの興奮で、目がチカチカしてくる。

「は・・っ、ん!」

空気を欲して開けた唇はすぐにホージーのそれによって塞がれて。

甘い舌が唇をなぞり、歯列をなぞり、そしてようやくセンの舌に絡んでくる。

なんか、もぉー・・・やばいんですけど!

たまらなくなってホージーをもっと、と引き寄せようとすれば

手をペシ、と叩かれてそれはできなかった。

じゃあせめて反撃だ・・・そう思い主導権を奪おうとしたその矢先に

ホージーの唇はあっさりと離れていった。

「え?!」

「よし、ちゃんと起きたみたいだな、じゃあ早く支度して来いよ。先行ってるぞ」

「・・・ちょ、ちょっと宝児さん・・・・・?」

バタン。

無常にもセンの部屋のドアが勢いよく閉められ、ホージーも何事もなかったように去っていった。

「え、嘘・・・・」

ホージーの背を追いかけようとした手は宙に止まったままで、センは愕然とする。

ここまで高められた熱をそのままほっとかれて、どうしたらいいの?

「く・・くっそー・・・・」

やっと我に返ったセンは、着替えもそこそこに制服を小脇に抱えて走り部屋を出た。

 

 

 

 

「宝児!君ねぇ〜!!!」

引っ掛け程度に制服を羽織い、ゼイゼイと息を切らしながら、

しかも珍しく顔を真っ赤にして目の前に駆けてきたセンに目もくれず

ホージーは自分の書類に目を通しながら

「おはよう、センちゃん。いい朝だな」

そう、そんなことを言った。

「いい朝だって?こっちは君のせいでとんでもない朝だよ!あそこまで・・」

「大きな声を出すなよ。どうしたんだ?朝からそんなに興奮して」

「だから!宝児のせいだってば!そっちから・・・」

「俺が何したって?遅刻しそうな同僚を起こしてやったのに、何が悪い」

「だ、だからってね、俺だって男の子なんだよ?あんなことされたら俺の・・」

「はいはい。朝からシモネタはやめてください。

とにかくパッチリおめめが覚めたようでよかったなぁvセンちゃん」

そう言ってにっこりと口の端を上げながら立ち上がったホージーは

「そ、そ、そんな顔したってご、ご・・誤魔化されないからね、お、俺は!」

と言いつつもすっかり動揺したセンの横を通りすぎ、その時にセンの頭の上にどさっと大量の書類を乗せた。

「・・・・へ?」

「昨日のポイント501のアリエナイザーによる家宅侵入強盗事件と、

ポイント33のコンビニ強盗事件において、二つの事件で犯人の行動に共通があった。

その共通事項をもっと詳しく調べて、分析した結果をまとめて提出すること。

で、これがその犯人の傾向と狙った家宅やコンビニの共通事項。

それが今まで強盗を犯して捕まったことのある犯罪者リスト。

あ、それはポイント501の住居人リストで、それは33のほうな。

あとそれがコンビニの防犯カメラの静止画のコピー。

落ちていた毛髪や皮膚の分析結果もあるからな。

じゃ、よろしくな、センちゃん」

ぽん、と軽く肩を叩いて去っていくホージーを、センは今度こそちゃんと捕まえることができた。

「ちょ、今度は逃がさない!宝児、一体何・・・・・」

そう言いかけたセンを遮って、ホージーはセンの耳に唇を寄せた。

その行動に驚いたセンに構わず、ホージーはゆっくり、そして甘く囁く。

 

「その書類が終わったら、さっきの続き・・・しよっか、セン」

 

おまけに吐息を吹きかけられて、センはドサっと手に持っていた書類を床に落とした。

顔はさっきより更に火照って赤い。

うわ、どうしよう何これ夢かな・・・そんなことをブツブツ言い始めたセンに気付いたウメコが

「どしたの、センさん」

その変な様子に気付いて声をかけたのに、その声も耳に入らず

センはしばらく止まったまま動かなかったが、突然狂ったように椅子に座り書類の整理を始めた。

「?何、どしたのセンちゃん。なーんか大変そうだねぇ、俺手伝おっか?何から・・・」

「結構です!!!」

「へ?!」

珍しいバンの申し出も素早く断り、センの書類をめくる手はいよいよ高速、いや光速だ。

そんなセンを横目で見て、ジャスミンは知らん振りをしているホージーに声をかける。

「・・・悪いオ・ト・コ」

「嫌な言い方するなよ、俺は奴を起こしてやって、しかもやる気を出してやったんだぞ?」

「書類を押し付けて?」

「あの書類はどうせセンがやらなきゃいけなくなった仕事だ、俺はなーんにも悪くない」

「で、も・・誘惑したくせに」

「・・・誘惑ねぇ?それであんだけやる気がでるんなら、いいんじゃないか?」

「まぁ、よく言うわ?それにしても・・珍しいわね、貴方がそんなことするなんて」

「・・・・・・・・・・・・・ま、春、だからな」

「え?」

 

 

―――――――――――――発情期、かも。

 

 

とは、死んでも言えないけど。

 

「だから、何なのよ?」

「ん・・・・・・なんでもないさ、ただ」

「ただ?」

 

 

「どうにもこうにも、あいつが欲しいだけだ」

 

 

「は、はい?」

ポカーンとあっけに取られたジャスミンを、横目で(正確には流し目で)見て

「まだまだ子供ですね、茉莉花さん」

そう言ってのけたホージーに、ジャスミンは驚きのあまり「まぁ」と言うしかない。

それにホージーは口の端をあげただけの笑みを返して、空想する。

今日は『おあずけ』した分、センの奴やばいかも。

ま、それより俺の方が今日は・・・もっとやばいかも、な。

覚悟決めとけよ・・・・・セン。

そんな事を思いつつ、キレイに手入れされた爪をキラリと光らせてまた、笑った。

 

 

 

 

 

 

その日の夜待ち受ける想像を超えた運命なんか、その時のホージーは知る由もなかったけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき>

うわー訳わかんないですけれど。

何を書きたかったのかというと

ただ寝ぼすけセンちゃんを書きたくて

それをちゅーで起こす宝児が書きたかったんですけれど。

何故かこんな話に・・・

ジャスミンは出てこない予定だったんですけれど出ちゃったし。

発情期なのか・・・・・・なんなんだ宝児。どうした宝児!

今日は何故か勝気で強気で珍しく勝利した宝児君でした。

そして夜は逆に攻められ・・・・・(以下自粛)

しかも焦らされた分今夜のセンは凄いですよ(笑)

そこらへんはご想像にお任せするとして。

いろいろごめんなさい・・・・

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送