<テツの観察日記:3>

 

 

 

「先輩方、一息いれてティータイムにしませんか?」

そう明るく言ったテツの声に、書類と格闘していた諸先輩方は

虚ろな目をしながらも顔を上げて大きな背伸びをした。

「じゃあ、私ジャスミンティーね」

「俺は・・・番茶な!」

「私は梅昆布茶、じゃなくってアップルティー」

その注文を1つ1つ繰り返し、ふとテツは先輩の人数が足りないことに気づく。

「あれ、センさんとホージーさんは?」

「ホージーなら一番早く書類を片付けて、さっき貴方より一足先に『喉がカラカラだ』とか言いながらティータイムに入ったわよ」

「ああ、そういえば」

「さっすが相棒!仕事終わるの早いなぁー」

「彼を相棒と呼ぶのなら、バンも少しは見習いなさいね」

と、ジャスミンは横目でバンの隣に人一倍山積みになっている書類を見た。

その視線を受けてバンも一緒に横目で書類を見て、思わず盛大なため息をついた。

「はぁい・・・」

「で、センちゃんは?ウメコ」

「はいはい!センさんはねー、さっきボスのお使いですぐそこまで行ってくるって出て行ったよ。

もう戻ってもいい頃なんだけど、遅いなあ・・・。あ、もしかしてサボりかな?!」

そう首を傾げるウメコを、テツは「ウメコさんに言われたらおしまいですね」と笑った。

何ようそれぇ!!!と怒鳴り声を背中に受けつつ、

テツは謎が解けたところで早速お茶を入れようと給湯室に向かった。

が。

皆がそのテツを見送ってすぐに、テツは何故か呆然とした顔でデカルームに戻ってきた。

「・・・どうしたの」

「何か、変なのが」

「変なの?」

「俺、あんなの初めて見ました」

「だから、何があったの?」

「『準備中』・・って掛札が掛けてあって」

「え」

「給湯室で、何を準備することがあるんですかね?お店じゃああるまいし」

「そ、それは・・・・・・・・・・・・・」

不思議そうな顔で考え込むテツをよそに、他のメンバーはどこか青ざめて遠くを見ていた。

その様子に気付き、テツは慌ててその訳を問いただす。

「み、、皆さん・・どうしたんですか・・・・・・?!」

「い・・・いや別に」

「ジャスミンさん!?」

「世の中知らなくていいことがたくさんあるのよ」

「ウメコさんまで!」

「わわわ私に聞かないで」

「バンさんは・・・・・・・・」

「俺もその掛札は何度か見たことがあるぞ?でもその度にジャスミンが行くなって」

「知らないんですか?」

「うん、だから・・テツ確かめてこいよ!」

「ええ?!俺がですか?」

「や、やめなさいよバン!変なこと頼むのは」

「いいじゃん!行って来い、テツ」

「テツ・・・駄目よ」

「ジャスミンさん・・・じゃあどうして行ってはいけないのか理由を教えてください」

「・・・それは」

「・・・・・言えないんなら、俺は自分で確かめてきますよ!」

「テツ!」

「よっしゃその息だ!行って来〜い!!!」

「はい!」

そう決意を固めたテツは、一目散にまた給湯室へと向かった。

その後姿を見送って、ジャスミンは小さく「どうなっても知らないんだからね」と若さを感じられない仕草で肩を落とした。

 

 

こんなものは勢いだ、と思う。

テツはキッと給湯室を見据えながら足早にその場所へ向かっていた。

しかしやっぱりどこか気後れして、給湯室に近づくにつれて思わずそろり、そろりと足音を忍ばせてしまった。

(何を怯えることがあるんだ。ジャスミンさんがあんなに止めるからって・・・)

そう思えど足は軽くならず、やっぱりテツの足音は廊下に響くことはなかった。

そして目的の給湯室。

やはり変わらず『準備中』の札がかけてある。

けれど中からは人の気配がして。

(もしかして、凶悪犯が隠れてたり・・・。ジャスミンさん達が情が移って隠してるとか)

悪い想像をして、テツはごくりと唾を飲み込む。

だがそこはさすが特キョウ。

それでも気丈に給湯室のドアに手を掛けて

思いっきりスライド式のドアを左に引いた。

 

(何がいるんだ!)

 

 

 

 

「「あ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」

 

バシン!

思わずテツはドアを閉めて、立ち尽くした。

(えと・・・今のは・・・・・・・・夢?)

思わずそう思って、でもやっぱり自分の記憶を辿る。

(いや、でも確かに・・・、今のは)

・・・・・・・・・・・・・・・・でも。

やっぱり夢かも知れない、そう思ってテツは今度はゆっくりとそのドアを開けた。

すると中に、は。

「あーセン、・・・ちゃん。で、でな・・・・あの窃盗の件だけど」

「あ、ああ・・・・・宝児・・・・じゃなかった・・・ホージー・・・・・」

「馬鹿!あ・・・セン・・ちゃん、その、あの・・なんだ」

「そ、そう・・その件で・・・二人きりでね、どうしても話さなきゃいけなくて・・・ね?」

「ああそうそう、だから何にも・・・・あの・・やましくは」

「宝児、あ間違えた・・いやホージー、自分でばらしてる・・・」

「ばらすとか言うな!!!」

バシ、と乱れた着衣を片手で押さえながらのホージーの裏ツッコミがセンの肩に炸裂した瞬間、テツは何も言わずドアを閉めた。

(わざとらしいんだよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!!)

「・・・・帰るか」

もう何もする気になれず、テツはがっくりと肩を落としてデカルームへととぼとぼと歩いていった。

 

 

デカルームに帰ると、テツの様子を見たジャスミンは「やっぱりね」と呟いた。

「ほら、言ったとおりでしょう」

「・・なんで教えてくれなかったんスか」

「教えれるわけないでしょ」

「まさかウメコさんも同じことを?」

「・・・あはは、まあね」

「なぁ皆、何があるんだよ!何で俺は行っちゃいけないんだ?」

「・・先輩・・・・・・・世の中には知らなくてもいい事がたくさんあるんですよ」

「テツ、お前オジサンくさい」

オジサンくさくもなるだろう、あんな光景を見てしまったら。

あてられた・・・・。

「何であんなことで?」

「たまにあるのよ、ふと廊下で会って・・・ってつい、みたいな感じで。

今回は多分給湯室にいた『彼』を『あの人』が見つけたんでしょうね」

「・・・・・・・『準備中』には、立ち寄るべからず」

「これ、ホント」

「な、な、何なんだよー!!!皆して!!!」

わーわー騒いでいるバンを横目に、事情を知っているメンバーは顔を見合わせてため息をついた。

「平和ね」

「平和ですね」

「・・・私もああいうのしたい」

「ウメコ」

「ウメコさん!」

「だってぇ・・」

と、そこでデカルームの中に入ってきた人物に、テツは思いっきり顔を逸らした。

何にも見てませんから!!!!とでもいうように。

そのテツの様子に、ごほんと咳払いをした『彼』が持っていたカップの中には。

 

 

煎茶・・・・・・・ね。

 

 

横目でそれを確認して、それでもどこか怒る気になれないのは

『彼』があんまりにも幸せそうな顔で『煎茶』を飲むからだろうか。

 

『ほうじ茶』を手に持った『あの人』はきっときちんと5分後にくるんだろうなぁ・・・。

テツはそう考えて可笑しくなってわずかに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき>

今回はずっと書きたかったネタだったので書いてて楽しかったです。

どうでしょう?テツの観察日記シリーズ(笑)

自分では結構気に入ってます。

テツ不幸になれ、みたいな(笑)

いや自分的にはテツは不幸どころかうらやましい限りなんですけど(こらこら)

テツ自身にとってはきっと災難いがいの何者でもないでしょう。

給湯室にしたのはやっぱり『煎茶』と『ほうじ茶』を出したかったんですよー。

給湯室に入った最初の時、テツが見たのはどんな光景だったんでしょうか?

そこは皆さんのご想像にお任せします。

あと、最後に

『ほうじ茶』を持った『あの人』はやっぱり5分後に現れました。(テツの観察日記より抜粋)

しかも横目でちらりとホージーさんを見て意味有り気に微笑みました。(テツの観察日記より抜粋)

それを受けたホージーさんは真っ赤になりました。(テツの観察日記より抜粋)

ナンセンス!(テツの観察日記より抜粋)

だそうです(笑)

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送