テツの観察日記:4

 

 

 

 

 

 

 

俺は、今までそんなこと自覚したことなかったけど。

今ばっかりは、そう思わずには居られない。

・・・・・俺って、結構不幸だってことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、ちょっとお昼に行ってくるわ」

「えージャスミン、私も連れてって〜」

「いいわよウメコ、一緒に食べましょ」

「ジャスミン〜、俺も俺も!腹減ったー」

「ついてきても別に奢らないからね」

「・・・・いいもん、自分で払うから」

「あらそう?じゃあバンも一緒に行く?」

「やりぃ!じゃあ、行こうぜー!」

「悪いわね、まず私達3人だけご飯食べてくるわ。

帰ってきたら交代するから、それまでお留守番お願いね」

「ああ、わかった。3人とも、食べ過ぎちゃ駄目だからね、太るよ」

「も〜センさん!嫌なこと言わないでよぉ〜」

「はは、まぁウメコ、一杯食べて太ってきなさい」

「ジャスミン〜センさんがいじめるよ〜」

「ウメコはスマートだから大丈夫よ」

「そ、そうかな?へへ」

「話がついたとこでお前らもう行ったほうがいいんじゃないか?時間なくなるぞ」

「ま、ホージーの言うことももっともね。

じゃあ行ってくるわ。あとは、宜しく」

ある日の平和な午後。

そう言葉を残したジャスミンがひらひらと手を振ってデカルームを出て行き、

それに大急ぎで二人がはしゃぎながらついていく。

わぁわぁという喧騒がどんどん遠ざかっていくのを、

ホージーは耳を澄ましてそれを確認した。

だけど、もう少し。

・・・我慢、とホージーはまだパソコンを打ち続ける。

カタ、カタ、カタ・・・・。

その無機質な電子音が何の音も無いデカルームに異様に響き渡った。

ホージーはそれでもまだ耳を澄ます。

どうだ、何も聞こえないか。

足音なし、気配なし。

―――――――――――――よし。

ガタン。

大きな音を立てて、ホージーは椅子から立ち上がった。

そうして、勢いよくズカズカと歩いていく。

向かうはもちろん愛しの・・・

「セン」

ホージーは、後ろからセンの肩に自分の頭を預ける。

するとセンもそれを予想していたかのように

肩口のホージーの頭を片手でくしゃ、と撫ぜた。

「どうしたの」

笑みを含んだセンの、それでも優しい声に

ホージーはまるで猫が懐いてるかのように、センの肩に自分の顔を擦りつけた。

「んー・・癒しを、求めてる」

「そ・・・どう、癒される?」

「うーん・・・結構」

「っていうか甘えてるの?」

「うーー・・そうかな」

「かっわいー」

「センー・・・」

「ん?」

「いいなぁ、お前」

「何が」

「落ち着く・・・仕事バタバタしてたから・・・はぁ」

「宝児は無理しすぎ、俺結構心配だよ」

「そんなこと・・」

「無理しすぎ」

「・・・・・ごめん」

「わかればよろしい」

「でも、お前が居るからな」

「んー・・そのお返事おかしくありません?」

「だから、お前が居るからどんな無茶もできるっていうかなんていうか」

「なんていうか・・?」

「信頼してるって、そういうこと」

「ふーん?じゃあずっと俺の傍に居たらいいよ、皆帰ってくるまで」

「そうしてたいのは山々なんだけど・・・」

「俺の横の机に座る?」

「んん、そうしようかな」

「それで、手繋いで報告書こうか」

「ばか、それじゃあ書けないだろ」

「じゃあ・・俺のお膝に座って書く?」

「何言ってるんだ、もー・・お前は」

「・・・じゃ、キスしながら」

「・・・本気ですか」

「結構本気」

「無理だろうが」

「じゃあやってみようよ」

センはにっこり笑顔を顔に貼り付けたまま、ホージーの顎に指をかける。

それに、ホージーは今からされることを悟って、わずかに顔を赤くした。

「ちょっ・・・・セン」

「ドーンとやってみよ〜・・」

「それジャスミ・・・ん・・っ」

少し強引にでも優しく降ってきたその唇を

ホージーは素直に受け止めた。

舌を出して待つセンの、少し上目使いの瞳を見つめて

ホージーは照れくさそうにそれに自分の舌を絡ませた。

ちゅ

しばらくの長いキスの後、短い音をたてて二人は名残惜しそうに唇を離した。

が、その瞬間

ガシャン

という大きな音に二人は反射的にその方向を振り返る。

と、そこには・・・・・・・・・

「あ・・・・・・・・」

呆然と立ち尽くす、テツの姿があった。

 

 

 

 

 

話を数分前に戻そう。

その頃テツは調理室にいて、そして

「やっちゃったー・・・」

最大のピンチに見舞われていた。

そのピンチとは、テツの手の中の割れたコップ。

でも誰のコップだかわからなくて。

「あちゃー・・・」

誰のだろう、でもそのコップの柄は可愛いスヌーPが描かれている。

間違いなく、ウメコかジャスミンかスワンさんのものだろう。

やばい、やばい・・どうしよう。

でも、素直に謝るしかなく。

テツは項垂れながらデカルームへと向かった。

 

 

とぼとぼ、足取りも重くテツは廊下を歩いていく。

悪いことをしてしまった、人の物を割ってしまうなんて。

でも、悪気は無かったんだ・・・・そんな呟きをしつつデカルームの前まで来てしまった。

中を覗こうとすれば、何故か凄く静かで。

どうしようかと思いつつ、しばらくデカルームの前で佇む。

っていうか、このコップが誰のかを聞くのが怖い。

凄い怒られたらどうしよう。

テツは動くことも歩くこともできず、そのままデカルームの入り口の近くで立ち止まっていた。

でも、ここは男らしくいかなくちゃ。

すいませんでした、そう深く謝れば許してくれる、きっとそうだ。

よし、いくか!

テツは気合を込めてデカルームに入ろうとする・・が

その足取りは重く、そろりそろりと足音を立てずに歩いていく形になってしまう。

(情けない・・・・・・)

そう思いながら、デカルームに入ると目の前には二人の人物が居た。

その二人は何故かすっっっっごいくっついている。

しかもその二人は見覚えのある俺の先輩の

 

 

ホージーさんと、センさん。

 

 

やっばい・・また遭遇しちゃった・・・・・どうしよう。

そんな考えが頭をよぎるけど、衝撃に動くことができなくて。

目の前で二人が話すのを聞いてるしかなかった。

後ろからセンの肩に自分の頭を預けるホージーは、

とっても可愛くて、猫のようで。

肩口のホージーの頭を撫ぜるセンは、凄く大人っぽくてかっこよくて。

しかも二人とも、こんなに優しい声を出すんだってくらい甘い声。

なんか居た堪れなくなってきた・・。

「っていうか甘えてるの?」

「うーー・・そうかな」

えー、ホージーさんが甘える?!

うわ、意外だけど凄く可愛い・・と思ったら

「かっわいー」

なんて、テツの心の中の声をセン言ったのに、少し複雑な気持ちになった。

「宝児は無理しすぎ、俺結構心配だよ」

「そんなこと・・」

「無理しすぎ」

「・・・・・ごめん」

「わかればよろしい」

はじめて見たすぐ折れてしまう素直なホージーに、テツは驚きを隠せなくて。

ホージーさん、恋人には甘いなぁ・・なんて心の中で思う。

「信頼してるって、そういうこと」

なんてそんな甘い甘い台詞を聞いてしまって。

自分までドキドキしてくるのがテツには自分でもすぐにわかった。

「それで、手繋いで報告書こうか」

「ばか、それじゃあ書けないだろ」

「じゃあ・・俺のお膝に座って書く?」

「何言ってるんだ、もー・・お前は」

「・・・じゃ、キスしながら」

「・・・本気ですか」

「結構本気」

「無理だろうが」

「じゃあやってみようよ」

にっこり笑顔のセンが、ホージーの顎に指をそっとかけた。

その仕草が慣れていて、しかもかっこよくて、テツはそこから目を離せない。

わずかに顔を赤くしたホージーも、可愛くて、綺麗で・・

って、わ―――――――――――――――――!!!!!!!!!

み、見ちゃいけない、慌ててそう思いつつ顔を両手で覆って・・・

でも、お約束どおり指の間からその光景を見るのは忘れなかった。

 

唇が重なる。

目が、合って。

舌を、ぺろりと舐める。

息が苦しそう。

手をしっかり握り合っている。

長い、長い・・・・・・・

 

あまりにも甘く綺麗なキスに、テツは目を逸らすことができず、

ただ呆然とそれを見ていた。

が、その手の中にあったコップは

無意識のうちにテツの手の中からつるり、と滑り落ち。

ガシャン

「あ・・・・・・・・・・・」

で、話は冒頭に戻る。

 

 

 

 

「テテテテテツ・・なんで・・おま・・ここ・・居る・・・・どうして」

動揺のあまり話せなくなってしまったホージーの後ろで、センはわずかに項垂れて自分の頭に手を添えていた。

(この俺が、宝児とのキスに気を取られて周りに注意が向かなかったなんて・・・不覚)

そんな事を考えつつ、ふとテツの落としたコップが目に入った。

「ん?」

「・・え」

「それ、ホージーの・・・コップ」

「・・・・・・・・・・・・・・はい?」

「だから、それホージーのコップ」

「・・・・・ええええっ!!!!!!!!!!!

テツは驚きのあまりその場に座り込んでしまった。

な、なんと・・。

「テツはまだ知らなかったかもだけどホージーはこう見えて可愛いもの大好きだから。

特にスヌーPとか、ね」

「ほ、ホージーさん・・・・・・・・」

恐る恐るホージーを見れば、ホージーはまだ目を見開いたまま呆然としていて。

それをセンが肩に手をかけてホージーの体を揺さぶり正気に戻した。

「ホージー・・、宝児、大丈夫?」

「・・・・・セン、やばい、どうしよう」

「どうするも何も見られてしまったんじゃしょうがないじゃない」

「・・じゃどうやって誤魔化すんだ」

「ん―――・・・」

少し何かを考えていたセンだが、ふと何かを思いついて口を開いた。

「テツ」

「は・・、何か・・・・」

「地球では」

「は・・はい」

「地球では、熱を測るときに舌で測るんだ」

「は・・・・・・・はぁ?」

「だから、お互いに舌を舐めあって熱を測るんだよ」

「・・・・・・・・センさん?」

「それ、ほんとだよ」

にっこり、そんな笑顔をされてもそんなの聞いたことが無い。

第一、男同士でそんなことするのおかしいじゃないか。

それにどちらも熱があるような様子などはないし

会話も全部聞いているんだから、そんなことをありえないのくらいわかっている。

「・・・・そんなの」

ありえないです、そう言おうとしたテツの口を、センは人差し指で制す。

「君、ホージーのコップ割っちゃったよね、反省は・・」

「してます!」

「じゃあさ、それで口止め料としてさ」

「は?」

「俺たちは、ただ熱を測っていた・・・そうだよね」

「・・・・・・・・・・・・・・な、な・・」

「そうだよね?テツ・・・・?」

怖い、怖い怖い怖い。

なるほど、俺を脅しているんだこの人は。

コップを割った代わりに

このことを誰にも言うな、そういうこと。

しかも何も言い返せない。

「テツ、どうなの?違うの?」

その笑顔が、また怖い。

「俺はね、テツ」

「は、はい・・・」

「別に俺達の関係が誰に知られようと別にかまわないんだ。

むしろ皆に宝児は俺の者だって事言って回りたい」

「は・・・・・・はい?」

「だけど、宝児は・・・違う」

「は・・はぁ」

「宝児はそういうの、嫌がるから」

「そ、そうなんですか・・・」

「俺は、宝児が大好きだから」

「え」

と、突然何を言い出すんだこの人は。

でもその瞳はほんと真剣で、笑い飛ばせるレベルじゃあない。

「だから、ね」

「は、はい」

「俺は宝児が嫌がることは・・・・したくない。

宝児が嫌がるんなら、俺はなんだって我慢する。

宝児の不安材料は俺が取り除く」

「・・・・・・は・・はい!!」

なんか泣きそう。凄く怖いですお母さん。

「だから、だからねぇ」

「はっ、はい」

「・・・・俺は宝児のためならなんでもする男だよ・・・・?

その覚悟ができるんなら、誰に言ってもいい、この意味ちゃんとわかるかい?」

・・トッキョウ殿、そう言われて鼻の頭を人差し指でつつかれた。

怖い、いろんな意味で怖い。

って言うか言えない、言える訳が無い。

それにしても、この愛の深さ。

思わずホージーさんがうらやましくなるほど

この人はホージーさんのことばかりを気にかけて。

そう言う関係も、悪くないと思う。

「わかりました」

「ん?」

「誰にも言いません、絶対」

「そ、命拾いだね」

えええ!

俺の目の前には最初から

1『誰にも言わず命拾い』か

2『誰かに言って抹殺される』の2択しかなかったってわけか。

あー、怖い怖い・・・。

そんなことをテツがしみじみと思っていると

「あー!俺の、スヌーP・・・・・・・・・」

なんてなんか情けない声が聞こえてきて、

慌ててそっちを振り返ると、床に落ちたコップを悲しそうに見詰めるホージーが居た。

そしてホージーはさっきまでの可愛い姿なんてすっかり忘れたかのように突然立ち上がって

テツの目の前までずかずかと歩いてきて、テツの目の前でピタ、と止まった。

そして

「痛っ〜!」

そう叫んでしまうくらい、痛い痛いでこピンを、お見舞いした。

「ちゃんとよく周りを見て行動しろ!」

なんて怒鳴って、颯爽とデカルームを出て行った。

それにセンが苦笑しつつ続く。

でも、最後に

「わかってるね、テツ」

ブラックスマイルでそう聞かれて、思わずテツはありえない甲高い声で

「は、はいいっ!」

と叫ぶくらいには、怖かった。

二人が居なくなると、テツはその場におでこを押さえたままへたり、とその場に座り込んでしまう。

言いたい、すっごく言いたい。

って言うかさっきの言葉をそのまま返したい。

 

 

「周りをよく見て行動しなきゃいけないのは・・あなた達のほうでしょ・・・・・」

 

 

その呟きは誰に聞かれるわけでもなく、ただ誰も居ないデカルームに響き渡るだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき>

お久しぶりの第4弾。

結構好評なんで今回どうだろうとプレッシャーを感じつつ。

ネタ思いついたとき書かなきゃいけないですもん(何だその理屈)

ネタというか、ただラブラブな(死語)を書きたかったというか

なので今回は必要以上にラブラブで・・・(死語)

また好評だといいんですけど・・・(図々しい・・)

ブラックスマイル・・勝手に造語。(セン専用・・)

そして「周りを・・」のくだりは麗ちゃん・・なんだそれ。

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