テツの観察日記:6

 

 

 

ある日、センさんに急にある仕事が回ってきた。

普通の仕事ならこんなに大騒ぎはしない。

けれど、それは超エリートであるこの俺でさえ

驚くほどの大役で、皆は相当慌てていた。

大役といっても、たった2日で終わる仕事だった。

けれどその仕事の全責任を任されるとなったら、

普通の人はビビって逃げたくなるだろう。

夢にまで出てきてうなされるかもしれない。

そんな人を俺はたくさん見てきた。

俺でさえ、あんな仕事任せられたら最初は断るかもしれない。

あの先輩だって、躊躇するだろう。

あの無鉄砲な先輩でさえ、だよ?

でも張本人のはずのセンさんはやっぱり

『いいですよー、俺行きます〜』なんて呑気なもので。

皆は大分拍子抜けしたようだった、もちろん俺も。

だってその話が出た途端、一気に皆の視線がセンさんに集まって

ピリピリした空気が流れたんだ。

『え、なんでセンちゃんが?』思わずジャスミンさんがそう言って、

ボスも心配そうな顔で、

『最初は断ったんだが、本部の方で今までの活躍を見てきた上でセンに頼んでみたいと言うんだよ』

と少しバツが悪そうな顔でそう言ったくらいだ。

そこで沈黙。

を、破ったのがさっきのセンさんの呑気な言葉。そして

『やだなぁ〜皆、そんな深刻な顔して。

大丈夫だって、なんとかやってきますよ』

お気楽そうにそう言葉を続けて、早速ボスとその仕事の詳細な計画を練り始めた。

そして出発は刻一刻と迫ってきて、センさんの顔にもいよいよ緊張が・・

走るわけもなく、どっちかっていうと逆に他の皆の方が緊張していた。

ほんとにできるの?大丈夫?なんて聞きたいけど、やっぱりなんとなく聞けなくて。

そうして、皆の心配をよそについにその仕事へと旅立つ日がやってき(てしまっ)た。

当日になれば、やっぱり皆の緊張はピークに達していたのに対して、

今からその大役に身を投じることになるセンさんは、

一向に笑顔を崩さないまま、皆に向かってにっこりと

「お土産買ってくるよー、何がいい?

あの本部のまんじゅうおいしいんだよねぇ?まんじゅうでいい?」

なんて言うから皆更に拍子抜けした。

でも、ウメコさんあたりはどうしても気になるらしくて何度もセンさんに声をかけていた。

「ほんとに大丈夫?センさん」

「ウメコ、そんな顔しないの」

「うん、でも・・」

「大丈夫だから、ね?」

「・・・・あんまり無茶しちゃ駄目だよ」

「そうだね、わかってる。連絡入れるよ・・皆に」

なんて会話をしてる二人の間を颯爽と通り抜けたのは・・・あ。

この人を忘れていた、ホージーさん。

「何お前らは夫婦みたいな会話してるんだ」

そんなこと言いながら、手にはたくさんの書類だ。

何だあの量・・。

「あっれー、やだなぁ。ヤキモチ?かーわいい」

「ばっか言うな、早く行けお前なんか!」

「酷いなぁ〜、ずっとまともに顔も見てなかったというのに!」

「はいはい、今見ただろ?じゃな」

「うわ、酷いあの人、冷血漢、人間じゃないね」

あははは、なんてセンさんが笑うのに皆は苦笑する。

あ、でも本当だ。

最近ホージーさんは忙しく動き回っていて俺も姿をあまり見ることは無かった。

少し見かけたかと思ったら、また次の仕事へ。

よっぽど何か大事件かな、と思ってたんだけど・・。

そんな事を考えてると、急にウメコさんがホージーさんの後姿を捕まえた。

「ホージーさん!」

「わ、なんだよウメコ。俺今からちょっと・・」

「ほんと、酷いんじゃない?」

「は?何が」

「だってほんと最近ホージーさん、センさんの前にも誰の前にも姿現さないじゃない。

仕事仕事って、そんなに仕事が大事なの?

どうして?センさんはあんな顔しててもほんとは不安なのに・・」

「・・・そっか〜?あの顔はほんとに・・」

「はぐらかさないで、ホージーさん!

今からセンさんあんな大役を任されるんだよ、ホージーさんは・・心配じゃないの?

ほんとはセンさん、きっと一番ホージーさんに励まして欲しいはずなのに」

「ウメコ、いいから・・」

「センさんは黙ってて!

皆ずっと心配してたんだよ。口には出さなかったけど、心配で仕方なかったの」

「・・・心配?」

「ねぇ・・ホージーさんは、心配じゃなかったの?」

 

 

 

 

 

「は?だって、センだぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ?」

 

ホージーさんが言った言葉に、一同固まる。

ただ一人センさんだけが見たこと無いような嬉しそうな顔でホージーさんを優しく見詰めていた。

えっと、どういうこと・・・?

「ど、どういうこ・・」

「だから、センなんだぞ?何を心配する事が?」

「・・・・・・・・はい???」

「じゃ、俺は行くぞ。忙しいんだってば」

スタスタと去っていくその後姿を、今度こそ誰も止めることができなかった。

「なに・・・・・あれ」

ウメコさんは頭にハテナマークをいっぱい浮かべたまま呆然と立ち尽くすだけ。

それを、仕方ないわね、というようにジャスミンさんがウメコさんの肩に手を置く。

「ウメコ、スッキリ?」

「モヤッと・・・」

「わかんないの?あの意味が」

「・・わかりませんよぅ?」

「とんだノロケよ、ねぇセンちゃん」

「あれーそうかな?なんか毒があるように聞こえるんですけど」

「うふふ、そうですかねぇ?」

「そうですよ、あんま可愛いホージーくんをいじめないであげてよね?俺が居なくても」

「いじめてないわよ、人聞きの悪い。

でもあんなね、自慢を聞いちゃったらぁ・・いじめちゃうかも?」

「自慢ってなーに、ジャスミン」

「そうだよ俺にも聞かせて、相棒がいつ自慢したの」

「バンまで・・・。もうね、

『だって、センちゃんだよ?』・・・だよ?」

「だって、センちゃんだよ・・?」

「だって、センちゃんだよ・・・?」

「ちょっと皆俺の名前繰り返さないでよ。恥ずかしいなぁ」

「これが今回のセンちゃんを送り出す合言葉よ。わかる?」

「わかりません」

「仕方ないわね〜、じゃあ直訳してあげます」

「・・・直訳って、ホージーは日本語話したと思うんだけどね」

「まぁまぁ、では先生お願いします」

「よろしい。いいですか?

まずそのままを直訳すると・・・

『センは仕事もできるし優秀だし

絶対ちゃんとあんな仕事くらい簡単に終わして帰ってくるに決まってる。

だから何を心配する事があるんだ?』

えー、この場合文頭に『俺の』とつけても結構です」

「ちょ、ちょっとジャスミン・・・・」

あはは、ジャスミンさん・・・凄いな(いろんな意味で)。

あー、そうか・・そういう意味だったんだ。

と、俺は一端納得したのにジャスミンさんは更に言葉を続けた。

「そして、ここからが一番重要です

最後にこう付け足すと、彼の心情が一番伝わるでしょう。

その言葉というのが・・」

「その言葉というのが・・・?」

 

 

 

『俺は、センを信じてるから』

 

 

 

「という言葉です。おわかり?」

「・・・・・・・・・・信じてる」

「そういうことです。つまりはノロケです」

「ああ、そっかぁ・・・・・」

納得してしまう、あの小さい言葉にそんな意味があったんだ。

照れ屋なホージーさんの、精一杯の励ましの言葉。

「可愛いでしょ」

「可愛いですね、はいはい」

俺はそう言うしかない・・のになんで自分でふっといて睨むんですかセンさん!

怖いなぁこの人・・。

「あとね、ウメコ。

ホージーが最近人一倍忙しく動いてるのって、なんでだかわかる?」

「え?・・よっぽど大事件でもあるかなって」

「はい、大間違いですウメコさん。

実はですね・・・ここからはセンちゃん先生が言う?」

「別にいいんだけど・・・。

ホージーは・・・俺のために、あんなに仕事頑張ってくれてるんだよ」

「え、センさんのため?」

「・・・・うん、そうなんだ。

俺が集中して仕事に行けるように、

帰ってきてから溜まった仕事で大変にならないように、

帰ってからゆっくり休んで欲しいから・・・俺には全然言わないんだけどね。もちろん、皆にも。

だから二人分の仕事を・・・自分の仕事をちゃんとしながら俺の仕事もして

しかも2日後の仕事までしてるんだ。ほんと・・バカだよね」

「そう言いつつ顔は随分嬉しそうですけど」

「ジャスミン、何?最近怖いですよ〜」

「そう?あんまりラブラブだからさぁ、ね?」

「そうだよね、これは・・むかつきますね」

「相棒〜・・・俺にはそんなのしてくれないくせにぃ」

「愛の大きさが違いますから。なんちゃって」

「もー・・センさんなんか早く行っちゃえ!」

「そうよ、そろそろ行かないと遅れちゃうんじゃない?」

「うん、そろそろ・・行かなきゃね。

じゃあ、そこの・・陰に隠れてる意地っ張りな人に伝えといて」

「は?陰????」

「『おみやげに美味しいイチゴタルトを買ってくるから紅茶を用意していいコで待ってるんだよ?』

あ、あと・・・・『浮気しちゃ駄目だよ?』ってね」

皆が驚いて廊下の方を見れば、しばらくしてから

「・・・お前こそな!」

と廊下の影から気まずそうな、怒ったような、そんな声が聞こえてきて

皆は顔を見合わせて笑ってしまう。

すると怒ったような足音が遠くへ消えていくのが聞こえて、

ようやくセンさんは踏ん切りがついたらしく仕事へ向うことになった。

「・・じゃ、行ってきます」

「うん、行ってらっしゃい」

「あれ、ウメコ。さっきみたいな心配そうな顔はしないの?」

「んー・・だって・・・・・・・センさんだもん」

「ね、センちゃんだもんね」

にっこーと笑いながらウメコさん達が言うのに、センさんは今度は真面目な顔になった。

あれ、どうしてだろう、と思えば。

「ほんとは・・・って言っていいかな?」

「え、う・・うん、いいよ」

「ほんとは・・・俺だって結構、不安だったよ。

大丈夫かなって心配で、嫌で、逃げ出したくなったこともあったけど」

「・・・・・・そうだったの?」

「うん、かっこわるいからさ。せめて笑ってようと思って。

でも・・・君たちが、そんな風に笑ってくれると

俺・・なんか安心する。ちゃんと、心から笑える。

行ってきます、って自信もって言える」

「センさん・・・」

「だって・・・・・・・・・・・俺だもんね」

「そうだよ、センさんだもん。大丈夫よ」

「そう、だよね。こう思えたのも・・・・・」

そう言って、センさんはもう誰も居ない廊下を見詰めた。

皆も、そこを見て。

ああ、勝てないなぁ・・・なんて、なんか思ったんだ。

もちろん俺も。

きっと、ホージーさんはそういうことを言いたかったんだなぁって思った。

送り出す側が心配そうな顔してたら、きっとセンさんだって不安になる。

だから、ああやって一言だけでセンさんにエールを送った。

そして、凄く心配なんだけどそんな心配そうな顔を見せるわけにいかないから

きっとすぐセンさんの前から姿を消して。

でも・・どうしても心配だったから、顔を見せないように廊下の影からセンさんの事を想ってたんだ。

頑張れ、しっかりやって来いよと。

そう願って。

「凄いなぁ・・・・」

ウメコさんも俺と同じ事を思っていたらしくて、そう感嘆の声をあげた。

ね、凄いですよね。もう、あの人には敵わないよ。

「じゃあ、行ってくる」

そう笑うセンさんの顔は、ほんとに不安なんかこれっぽちもないくらいの笑顔で

こっちもなんか安心した。

そうだね、こういうのが・・仲間なんだね。

センさんが旅立って行ってしまってから、

ウメコさんはまだ少しぽけーと何かを考えていた。

そして急に思い立ったように言った。

「ね、ジャスミン。私も・・あんな風にさ

自分の大事な人を自信もって言えるかな?

心配ないよ、だってあの人だよ?大丈夫だよって、言えるかな?」

「そうね、言えるわよ。

だって、貴女は今目の前にいる人を・・そう言ってくれるでしょ?」

「・・・・ジャスミンを?」

「そう、『私のジャスミンだよ、ぜーったい大丈夫』って

そう言ってくれるんでしょ?」

「・・・・・・・・・・・・っ」

ウメコさんはぱあぁっと目を輝かせ、ジャスミンさんに思いっきり抱きつき、

元気のいい、とても通る声で

「・・うん!!!」

と返事をした。

俺も、いつか・・・・・・そう思って

そして今回はあんまり不幸な目にあわなかったことに心から感謝した。(睨まれたときは怖かったけど)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてもちろん、センさんは

両手いっぱいにお土産を抱えて

何のミスもなく、完璧に仕事を終えて帰ってきたとさ。

その仕事は本部でも評価が高く、ボスも大変喜んでいるくらいで。

ポイントは

あんなリラックスしてあの仕事をした奴は、初めてだ

・・・ということらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と言いたいところだったが。

こんなうまいこと終わるはずもなく。

やはりこうなると調子に乗ってくる男が居るわけで。

ある日

『なーに心配してるんだよ。俺の相棒だよ、大丈夫!』

なんて言ってるばーかな先輩のせいで・・・

俺まで、巻き込まれて今・・大変なことになっている。

「テツ助けて〜!」

「ぎゃー!近寄らないでくださいよ先輩〜!

うわ、追ってきた!怖い!ぎゃー!!!」

ふふふふふふふふ・・・誰が、俺のだって・・・・?

「なにあの重低音!ぎゃぁああ!!!」

「何で俺まで!!!!うわぁ〜!!!」

「ん?お前ら何やってるんだ?」

「ほーじぃ〜さぁ〜ん!!!!」

と、そこへ助けに来てくれた女神かと思いきや・・・。

「ガンバ☆テツ!大丈夫、テツだもん♪(はーと)」

「こらあんた!元はと言えばホージーさんが・・」

こぉらテツ・・・・何、俺のもんと仲良くお話してるのかなぁ????

「してません!ぎゃー!!!!!ホージーさんのばかぁ〜」

「誰がバカだって・・・・・・?センちゃん、やっちゃいなさい」

りょーかぁーい・・ほら、おいで・・・・

「嘘、今の嘘ですっ!!!うわあああ」

やっぱり、俺の不幸はまだまだ続きそうです・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき>

久しぶりのテツ6です。

おまたせしてすいません。

結構好評なシリーズなので、喜んでいただけたら嬉しいなv

テツはやはりこういう役回りなのです。かわいそう。

今回は割りとシリアスに決めてみたはずでしたが

最後はやっぱりああでなければ。

こういう話好きなんです。

バンちゃん台詞少なくてごめんね〜。

梅ちゃんいっぱい出したのに。

梅ちゃんは可愛いなぁ〜。

そして宝児も可愛いなぁ。(関係ない)

で、セン様は怖いなあ(笑)

テツはごめんね・・・・・・・。いろんな意味で。

それにしてもこの背景なんかSPDっぽくない?いやすいません。

感想とかいただけたら泣いて喜びます^^

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