宝児くんの小悪魔入門

 

 

 

「ただい・・・あれ?」

宝児がいつものようにパトロールから帰ってきて

デカルームに入ってみるとそこには誰も居なくて宝児はわずかに落胆した。

「なんだ・・美味しいケーキ、買ってきたから皆で食おうと思ったのに」

ぶつくさと独り言をいいつつ、手に持っていたケーキを机に置いて自分も席についた。

そして宝児は目の前のケーキの箱を見詰め、はぁ、とため息をつく。

「お前の分もあったんだぞー・・・」

いつもなら決して言わない子供じみた言い方でそう呟くと、箱を開けてそれを覗く。

抹茶のムース。これなら甘いものが嫌いな彼も食べられるはず、そう思って買ってきたのに。

しかもちゃんと6人分、用意したのに。

バンには大好きなチョコケーキ、ウメコはショートケーキ、テツはモンブラン、ジャスミンはチーズケーキ・・・。

もし一人で食べてたらそりゃ職務放棄と言われても仕方ないけど、

皆で休憩と言う形で食べれば誰も何も言えないだろうから、それを狙って6人分買ってきたのに。

それに・・今日は一日全然彼に会えなかったから、会いたくてパトロールを急いで終えてきたのに。

―――居ないなんて・・・。

宝児はくそう、と小さく呟いて自分のでは無く、センの分の抹茶のムースをむんずと掴んだ。

そして一気に口の中に放り込むと、味わいもせずにごくんと食べる。

口の中にわずかな苦味が広がったが、気にせずにんまりとわずかに口元を緩める。

「ばーか・・・お前が悪いんだ・・・ぞ」

仕返しだ、誰に向かってとも言えない口調でそう呟いて、ふと机の上に目を向けるとそこにある物体があった。

「何だ、これ・・・本?」

宝児がその本を手に取ると、その表紙には

『小悪魔な女になれる本』と書いてあった。

しかも帯には大絶賛、売り切れ店続出、とか

『生まれて初めて彼氏ができました』とか体験談まで書いてあり、宝児はわずかに興味を持つ。

「なんだ、これ。・・ウメコのか?」

あいつ、何考えてやがる・・そう仲間にわずかな疑問を感じながら、その本を開き中を見る。

すると中には作者のテクニックが惜しげもなく披露されていて、宝児は思わずその本の内容に引き込まれる。

「・・・『男は、目線攻撃に弱い』・・・・へぇ、ああ、あいつはそうかも・・・・・。

『前の彼氏や男友達と今の彼氏を比べない』・・・・・・・・・俺、そんなことしてないはずだし、大丈夫だよな」

などと独り言を言いながら、本の内容を余すことなく目で追っていく。

『好き?には、大嫌いで答える』・・・『昼の顔と夜の顔を持つ』

・・・『小悪魔は、追い詰められても笑顔で交わす』 ふむ」

と、ふとある一文を見つけ、その文章に宝児は興味を持った。

『ボディタッチは、軽くがポイント』だけど、裏&上級技を使えば男はイチコロ?落ちない男はまず居ない。その方法は・・・」

そこまで読んだ瞬間。

「ほ・う・じ」

と聞きなれた、今一番聞きたくなかった声がした。

恐る恐るドアの方を見ると、そこにはセンがドアに手をかけて立っていた。

そして宝児の方につかつかと歩いていき、宝児のすぐ横までやってくる。

「・・・・・・・・・せ、セン、おかえり」

「何怯えてるの?皆は?」

「知らない。お前こそどこ行ってたんだ・・?」

「俺はずっとスワンさんとメンテ。宝児はパトロールだったんだろ?・・・・ん?」

「え?」

「宝児、これまさかケーキ?俺さ、今日凄くケーキ食べたかったんだよねー、もらってもいい?」

「あ、ああ」

「やった!」

嬉しそうな顔でセンが箱を開けるのを、宝児はどこかボーっとしてそれを見ていた。

買ってきてよかったなぁ、なんても思った。

センの大好きな抹茶だし、喜ぶだろうなぁ・・と、そこまで考えて宝児ははっとする。

さ・・・さっき、食べたんだっけ・・・・・・・・!!!!!!

しかもよりによってセンのだけ!しまった・・・

「せ、セン・・待て」

「えー?開けちゃったよ?・・・・・・・・・・・あれ?」

「あ・・・」

「宝児、これ何故か5人分だよ・・・。しかもみんなの好みに合わせて買ってきたみたいだけど・・・・俺のは?」

「あー・・・・・・・いや、その」

「まさか、食べた?」

「・・・・・・・・・え」

ぎく、として宝児が目を逸らしたのをセンが見逃すはずがなかった。

「・・・その顔は、食べたね?」

「う・・・・」

「仕事中なのに?」

「うう・・・・」

「一人で?」

「ううう・・・・・」

「しかも、俺のだけ食べちゃうってどういうこと?」

まさか、誰も居なくてケーキが食べれない腹いせと、

センが居なくて寂しくてそしたらむかついてきて仕返しとして食べた、なんて言える筈もなく。

だってセンは何にも悪くないんだから。ちゃんと職務をこなしてきたんだし。

なのに・・・どうしよう。

と、追い詰められた宝児はふいにさっきの本の内容を思い出す。

 

『小悪魔は、追い詰められても笑顔で交わす』 

 

よし、と宝児は決意を固め、急に笑顔を作った。

「セン・・俺・・悪気は無かったんだけどな」

そしてセンのすぐ傍まで寄って

 

『男は、目線攻撃に弱い』

 

を実践するべく、思いっきりセンの目を見つめた。

視線のビームを飛ばす・・・・書いてある通りに宝児はセンをじっと見詰めた。

しかもじっと見詰めすぎて外気に晒され、目が乾いて涙目になっても宝児は見詰めるのをやめなかった。

「な、何なの・・・・」

「ほんとに、悪気は無かったんだ・・・」

そして、センの腰あたりにそっと触れて、

 

『ボディタッチは、軽くがポイント』

 

を実践しながら、そこに書いてあった裏&上級技というのを思い出す。

書いてあったのは・・・えーと・・・・・・確か・・

 

「セン、まつげにゴミが」そう言いつつ

 

そっとまつげを指先でつまんだついでに

 

頬にチュッとキスをかませば・・・・・

 

 

 

 

 

―――――――落ちない男は居ない。

 

 

そこまでを完璧にこなして、宝児はセンの顔をじっと見て

 

「・・許してくれるか?セン」

 

そうできるだけ、甘い声で囁くように呟いて。

 

そして

『昼の顔と夜の顔を持つ』

の言葉通り

 

「俺がケーキの代わりじゃ・・・・駄目か?」

 

と、夜センの部屋でするような顔でそう耳元で囁いた。

するとセンは今まであまり見たことの無いような顔で宝児を見返して

赤く染めた頬を自覚し、慌てて目を逸らした。

そのセンの顎を人差し指でくい、とこちらに向かせ。

もう一度

「許して、くれる?」

とできるだけ甘い声で問えば、返ってくるのはもちろん

「許すも何も、許すしか・・ないじゃないか」

といういつものセンじゃないような少し焦った声で。

「・・よかった」

と笑顔を向け、思いっきりセンに抱きついた。

するとセンは困ったように

「なんか今日の宝児、小悪魔的だよね・・・・」

と呟いて、それに気を良くした宝児は少し楽しい気分で

「こんな俺は、嫌ですか?」

そう問えば

 

「そういう君も・・・・・・・大好き、です」

 

そう照れたようなくぐもった声が耳元で聞こえて。

宝児は、と問う声に

 

 

――――――――『好き、には・・・・・・・・・・・・・・』

を思い出して

ぎゅっとセンを抱きしめて、

とびきり幸せそうに頬を緩ませて

 

 

「・・・だーい嫌い」

 

 

 

 

そう、甘く甘く照れくさそうに囁いて、センの耳にそっと噛み付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

「この本に書いてある方法、すごく効くんだよジャスミン」

「へぇ、何でわかるの?ウメコ」

「だって、実践済みだ・か・らv」

そう言って横目でちらと見詰めてくる小悪魔に

(み、見られてたのか・・・・・・・・・・!)

とがっくり肩を落とす新米小悪魔が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき>

甘い・・・・・・・・・のか???????

今日買った本の内容を引用してしまったのだけれど・・・・・・ひえ。ごめん。

どうですかね?

皆様も実践してみると、いいことあるかもですよ・・・宝児みたく!(笑)

是非読んでみてください。(まわしものか)

うう・・甘いー・・・のか?(どっちだよ)

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