守りたい奪いたい愛されたい

 

 

 

その頃まだ5歳だった長男、蒔人はその子が生まれたと聞いたとき、歓喜した。

下のきょうだいは二人居たけど、どちらも女の子だった。

それは可愛くて仕方なかったけれど、蒔人はそれでももう一人兄弟がほしかった。

それも、男の子の。

一緒に外で泥だらけになって駆けずり回って、女の子には話せないような男同士の秘密をもちたかった。

だから、次に生まれてくるきょうだいが男の子だと知った時、蒔人は随分と喜んだものである。

 

「つ・ば・さ・・・?」

「そう、翼よ」

 

「翼・・」

 

「大事にしてあげてね、お兄ちゃん」

 

やっと生まれた翼を抱えた母にそう言われて、

なんとも言えない気持ちになったのを、蒔人はきっといつまでも忘れないだろう。

 

 

翼は、生まれつき色素が薄く、大きくなるにつれてそれは際立った。

女の子のように白い肌、色素の薄い茶色の髪。

芳香と麗はまるで女の子のようだと、翼に女の子の服を着せたりしてたけれど

それも見事に似合っていた。

上のきょうだいが3人もいる翼は、大人しい性格に成長した。

自分が何も言わなくても、全て上のきょうだいがしてくれるからだ。

話すことをしなくても、全く問題はなかった。

可愛らしい容姿と大人しく素直な翼に、

きょうだいは皆溺愛といってもいいほどの愛情を注いでいたから

翼の望むがまま、何もかもを与えていた。

「翼、これ食べるか?」

「翼ちゃん、これ欲しい?」

「翼、それ私がやってあげるわ」

翼もそれをごく当然だと受け取り、甘んじて受け入れていた。

そして蒔人だって、何もおかしいとは思わなかったし

むしろ翼が可愛くて可愛くて仕方がなかった。

大事に、大事に、道を間違えないように、

蒔人は翼を本当に大切にしてきたのだ。

しかし。

そんな翼ももう19になって、もう可愛い、なんて言えない歳になってきた。

それでも、蒔人の寵愛はやっぱり翼に注がれていたけれど。

口はやっぱり歳相応に悪くなってきたが

それに隠された優しさや素直さはなんら変わって無いと蒔人は思う。

だから今でも翼は大切な可愛い弟のままだった。

その翼は、成績も優秀で、顔だって悪くない(きょうだいの贔屓目かもしれないけれど)が

年頃の男なら居てもいいはずの彼女なんてものが居なかった。

それはただ翼に興味がなかっただけだ。

それを、悲しむどころか蒔人にとって喜ばしいことだった。

まだ翼には早い、そんなのが口癖だったから。

翼をまだ自分の手元に置いておきたくて仕方なかったのだ。

 

が、そんな(蒔人にとっての)平和な日々に終止符をうつ日がやってきた。

 

その日は、麗も芳香も外出で、蒔人は買い物の当番に行っていた。

たくさんの買い物をして、家に戻った頃にはもう暗くなっていて

蒔人は腹をすかせている弟のことを思い早足で家路に着く。

「ただいまー」

玄関を通り、キッチンに入り、荷物を置いて。

だがそこで、ある違和感に気付く。

「・・翼・・・・・・?」

家に居るはずの、翼が居ない。

すぐに何か悪い予感がして、蒔人は顔を青くした。(文字通りに、本当に青くなった)

慌てて家の中を探し回るけど、居ない。

翼の部屋にだってもちろん居なかった。

でもそこで、やっと蒔人はまだ見ていない部屋に気付く。

そこは、弟の魁の部屋。

魁は翼の2つ年下の17歳。

蒔人にとって魁はいつもトラブルメーカーだった。

わがままでやんちゃで自分の我を突き通すまるで炎のような性格。

兄である蒔人にだってまるで従うことを知らない。

反発して、抵抗して、結局は全て自分の思い通りにしてしまうのだ。

魁は蒔人の欲しいもの、欲しいけど自分でブレーキをかけてしまうもの

そんなものを躊躇することなく簡単に手に入れていく。

その末っ子ながらの強引な性格に憧れもあったが、

自分はそうなれないことのジレンマがあって。

どこか相容れない部分を抱えながらも、

蒔人はやはり可愛がってはいたが、翼に対する愛情とはどこか違う愛情を向けていた。

 

蒔人は、早速魁の部屋のノブに手をかける。

すると、中からなにやら話し声のようなものが聞こえてきた。

思わず耳を澄ませば、少し開いたドアの隙間から聞きなれた声が聞こえてくる。

声をかけようとした蒔人だったが、すぐさまその声に・・固まった。

「魁・・離せ・・っ、嫌だってば・・」

「今更何言ってるの、のこのこ俺の部屋にきたくせに」

「それは、俺が貸したマンガを・・」

「ちぃ兄は隙がありすぎなんだって・・もう諦めてよ」

「だって、・・・そろそろ・・ぁ、兄貴が帰ってくる」

「じゃあ、クチ塞いでてあげるから」

「そういう問題じゃ・・ん・・っん、む」

そこまで聞いて、蒔人の目の前は真っ暗になった。

聞こえるのは愛しい弟達の声。

でも、その声と内容はどう聞いても睦言にしか聞こえない。

更に二人の声は否応なく蒔人の耳に聞こえてくる。

「は、苦し・・・・・っ」

「ちぃ兄、好きだよ・・大好き」

「俺は嫌いだ・・ぁ、・・んっ」

「じゃあちぃ兄は嫌いな奴にこんなことされちゃって感じてるわけ?

ほんと、エッチなんだから」

「違う、感じてなんか・・ない、ぁ・・は、魁っ!」

「気持ちよく無いなら、その反応はなんだよ・・。

ココ、好きだろ?ちぃ兄」

「は、ぁ・・っ魁、やめっ・・か、い・・!」

「やらしいなぁ〜、その声」

そこでもう蒔人は握り締めていた拳を更に力強く握り締めた。

そう、血が出るくらい強く。

だって、今まで大事に大事に育ててきた弟が

誰か他の男に手篭めにされようとしているのだ。

我慢できるはずなんかなかった。

 

「魁っ!!」

 

腹から大声を出して、魁の部屋に飛び込んだ。

すると、目にはいったのはベッドにうつ伏せになった翼に

覆いかぶさってきょとんとしている魁の姿。

しかも魁は、翼の両手をいとも簡単に自分の体重もかけて押さえつけていた。

その翼の服は捲り上げられていて、そこに魁の手が忍び込んでいるのが見える。

しかもその指先はどう見たって翼の胸元に。

蒔人はその光景を見て一気に頭に血が上っていくのが自分でもわかった。

大事に、大事にしてきたんだ。

誰にも渡さず、誰にも触れさせず。

その翼が、その弟が。

「翼に、なにしてるんだ魁・・・」

「何も」

「何もってことはないだろ、何やろうとした?」

「・・・えー、そんなこと言えない〜」

「ちょ、ちょっと兄貴・・別に俺は」

「翼は黙ってなさい!魁、どうしてそんなことを」

「だって俺ちぃ兄が好きだから」

魁があっさり言い放った言葉に、蒔人は何も言えなくなってしまった。

こうやって、あっさりと魁は蒔人の大事なものを奪おうとする。

お気に入りのかっこいい人形だって

一生懸命作ったペンダントだって

友達に貰った万単位の時計だって

・・・母さんの愛情だって。

 

そうして、今は蒔人が一生をかけて守ろうとしていた弟までも。

 

「魁、翼はお前には絶対に渡さない」

お前に、の部分を思わず強調した。

「俺が、小さい頃から大事に大事にしてきたんだ」

そうだ、何よりも。

「だから、お前には・・・・翼を奪わせない」

大事なこの弟だけは、守らせて。

 

「・・・・・・ふぅん」

 

俺の渾身の言葉にだって、魁は何食わぬ顔でそう言った。

「俺は、ちぃ兄が・・・・好きだよ」

「・・・・・・・っ」

俺には言えない言葉。

好きだ、大好きだ。

この気持ちが、愛情なのか家族愛なのかなんてわからない。

だけど、大事すぎてそんなこと言えやしない。

翼が大切だ、大事だ、それだけで十分。

「俺は全力で翼を守る」

「いいよ、俺も全力で蒔人兄ちゃんからちぃ兄を奪ってみせる。

いつも余裕たっぷりで、何でも上から俺を見下ろすような兄ちゃんから、奪ってみせるんだ」

奪われてばっかりなのは、俺のほうなのにそんなことを言う。

魁を睨みつけて、俺は翼を魁の傍から手を引いて連れ出す。

翼の顔を見れば、なんだか泣きそうな顔をしていたから。

「大丈夫、大丈夫だ翼。兄ちゃんが、兄ちゃんがお前を守ってやる」

そう言いながらその頭を撫でれば、翼は珍しく素直に俺の胸に頭を預けた。

愛しい、守りたい存在。

大事な、大事な俺の弟。

 

 

 

 

 

「守ってみせる」

 

 

 

 

 

 

「・・・奪ってみせる」

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いの火蓋は、切って落とされたばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき>

なんじゃこりゃあー!(ゆーさく風)

緑黄を書いてみようと思ったら

し、シリアスになっとるよ!

私ギャグで書こうとしてたのに・・しかもなんか重―。

やだなぁこんな兄弟は(おい)

題名は

翼は兄貴が好きなので、兄としての立場を守り続ける兄貴に切なさを覚え・・で『愛されたい』

魁は翼が兄貴に取られてるから、奪われてばっかりだと思って翼を奪いたいと強く願い・・で『奪いたい』

兄貴は小説の通り・・で『守りたい』

そして微エロはなんでいっつも入ってしまうのかー!(笑)

ちなみにこれは続かないですよー。

次はギャグで馬鹿っぽい兄貴が書きたいなぁ。

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