文さんに教えてもらった通り学校の中を歩いていくと、割とすぐ職員室は見つかったので、僕はそのドアを開けようとした。

その瞬間に中から突然誰かが飛び出してきて、おもいっきりぶつかってしまった。

「いったぁ〜い・・・」

その人物はやたら高い声で叫んだ。

「ご、ごめんなさい!」

僕は焦って急いで手を差し出した。そしてその人はにこっと微笑みながら

「いいのよ、こちらこそごめんね」

と言って立ち上がった。すると僕よりも少し背が高いことに気づく。僕はいえ・・・といいつつその人物を見た。

まず目に入ったのは真っ赤な口紅だった。しかし下品な感じは無くむしろ上品な雰囲気が漂っている。長い黒髪を後ろでゆるく結んで前髪は左に流している。大和撫子、というたとえがぴったりの人物だった。

「あら?あなたもしかして転校生の坂下君じゃない?私あなたが入るクラスの担任をしてる松園 優華(まつぞの ゆうか)先生よ❤よろしくね!」

彼女はまた微笑んで僕の頭に手を当ててそう言った。

「こ、こちらこそよろしくお願いします!優しそうな先生でとても安心しました」

少し緊張しながらそう答えると先生は職員室の中に入るよう促した。職員室はいたって普通だ。あの生徒会室がおかしいだけみたいだ・・そんなことを考えていると先生に椅子に座って、と言われた。椅子の前にはいろんな教材や書類が並んでいて僕が混乱しているとひとつひとつ先生が説明してくれた。一通り説明が終わるといよいよクラスに行くことになる。先生は緊張しなくていいのよ、と言ってくれるけど教室に近づくにつれて僕の心臓は跳ね上がるかのようにすごい音をたてている。「2の2」と書かれた札のある教室に着き、まず先生が先に入って「転校生を紹介しま〜っす!」と言っている。いよいよ僕の番だ。教室に足を踏み入れる・・・とその瞬間。

「よっ!どんぐり〜!」

「きゃ〜!ほんとにどんぐりみたい〜!」

「かわい〜!」

な、な、何が起こったんだ?!僕が混乱してると聞き覚えのある声がした。

「よぉどんぐり!いらっしゃいまし〜!」
文さんだ!僕は緊張なんて一気に吹っ飛んでしまった。文さんはニコニコしながら僕の隣に来て、みんなに向かって言った。

「みんな〜!さっきも言ったようにこいつがどんぐりだ。いじめた奴は俺がやっつけるから絶対にいじめないように!仲良くしてくれよな」

するとクラスのみんなから「お〜!!!」という返事が返ってきた。僕はなんだかものすごく感動してしまった。嬉しい・・・心から文さんに感謝した。

「ちょっとぉ!文!もうこの子につばつけちゃったの?!あんた手が早すぎ、誰にでも妙なフェロモン振りまいてるんじゃないわよ!」
ぼくが感動に浸っていると近くで大きい声がした。その声の主は、何と松園先生だ。さっきとはぜんぜん違う表情で文さんにつっかかっている。

「フェ・・フェロモンってなんだよ!自分があんまり色気無いからって俺に当たるんじゃねぇよ!」

「なんですってぇ〜!こんなに色気たっぷりのあたしに向かってよくそんなことが言えるわね!弓クンはまだあたしの魅力に気づいてないだけよ!弓ク〜ン早く気づいて!」

「お前のどこに魅力があるって?!弓はなぁ、化粧の濃いババァになんか興味は無いんだよ〜だ!」
「誰が化粧が濃いのよ!弓クンだって今に大人の女性をすきになるハズよ。そしたらあんたなんかポイッ、っと捨てられちゃうんだから!」
「弓が俺を?!んなわけねーじゃねーか!なんなら本人に聞いてみるか?!」

文さんがそういった途端に教室のドアが開き弓直さんが入ってきて、文さんを後ろから抱きしめた。何でそんなタイミングよく現れるんだろう、この人は。とても不思議だ。

「はぁい、泉❤呼んだ?」

「どわ!ゆ、ゆ、弓!なんでここにいるんだよ!」

「愛しのお前が呼んでいたからね」

「ゆみく〜ん!私に会いに来てくれたのね!」

「おや、松園先生いらっしゃたんですか。あんまり私の泉をいじめないで下さいね❤」

どうやら松園先生は弓直さんがお気に入りのようだ。さっきとはうって変わった優しい表情になっている。しかし弓直さんは全然先生を見ていなくて、文さんを後ろから抱きしめたまま文さんに触りまくっている。それでも先生はお構いないしで何とか文さんを避けて弓直さんに詰め寄っている。

「いや〜ん!その冷たい瞳がたまらないわ!ねぇ〜?二人でお食事に行こうって言う話、覚えてる?なんなら・・今日当たりどうかしら?」

「すいません先生。今日は泉と約束があるんですよ」

完全に弓直さんは棒読みだ。興味はずっと文さんにむかっている・・・のに当の本人は戦線離脱状態でそっぽを向いておとなしく弓さんの腕の中だ。そんな文さんを先生は何とか引っぺがそうと必死になってもがきながら弓直さんの真正面にくっ付いた。すごい執念だ。そして得意げな顔をして人指し指を弓さんに向けて叫んだ。

「嘘よお!あたし知ってるんだからね、今日は宿題もないし寮で寝るだけって言ってたじゃない・・・・あ」

「先生・・・?何でそのことご存知なんですか?」

「え〜と・・・それは・・・さっき聞いたからよ!」

何か変なことになってきたみたいだ。弓直さんは始めて先生の顔をみて微笑みながら先生を見下ろしている。

「その話をしたのは、女性が入ることのできない男子寮の中でなんですよ?どうして、先生が、知ってるんですか?」

ゆっくりゆっくり弓直さんが尋ねる。さっきとは違う、少し怒りの感情の混じった口調がとても怖くて、先生も何も言えないでいる。僕はなんとなく見ていられなくて目をそらした。するとその瞬間いきなりクラスの女子の何人かががきゃあ!と喜びとも聞こえない声で小さく叫んだ。何事かと視線を戻せばそこには文さんをお姫様抱っこした弓さんがいた。

「な、なにするんだよ!降ろせ!」

文さんはさすがに慌ててもがいているが、弓さんはそ知らぬ顔で文さんをますますきつく抱きしめた。

「泉、ちょっとだけ我慢しててね」

そう言って弓さんは、なんと文さんの体を上下に揺さぶったのだ。

「わ、わ、わ、な、なに、するっ、んだ!」

文さんが叫んでるのも無視して更に大きく文さんの体を振った。すると・・・。

コロン。

文さんの体から何かが転げ落ちて僕の足元に転がってきた。

「何・・・?コレ」

僕が拾い上げると先生が怖い顔でこっちを向いて、引きつった顔でニコッと笑いながら近づいてきた。

「坂下クン・・・?それをこっちに渡してくれないかしら?いい子だから、ね?」

うわ・・・こわっ。どうしよう。僕を巻き込まないで〜!すると、目の前に弓さんが立ちはだかった。

「先生、これを渡すわけにはいきません。コレ盗聴器ですよね?いつから泉につけてたんですか?俺だと隙が無いから仕方なくいつも一緒にいる隙だらけの泉につけた・・・でしょ?」

「わ〜んごめんなさい!だって弓クン何も私に教えてくれないから少しでも知ろうと思って・・・。ほんとにごめんなさい!もうしないから〜!許して、ね?」

「・・・わかりました。でももうしないと約束していただけますね?」

先生は大きく首を縦に振って頷いている。よかった・・・、何とかなったみたいだ。僕が安心したところで誰かが僕の肩を叩いた。

「初めまして、僕がこのクラスの委員長をやっている水野 司(みずの つかさ)だよ。君も大変なクラスに来ちゃったね。このクラスはこういうことが日常茶飯事なんだ。先生はなかなか授業を始めないし先輩のはずの弓直さんはちょくちょくここに来るし・・・でも慣れてくればきっと楽しいと思うよ。わかんないことがあったら何でも聞いてね。」

メガネの奥から水野君はニコッと優しく微笑んだ。とてもいい人そうだ。友達になれたらいいな。

「こちらこそよろしくね、水野君。僕は坂下 冬馬。とても楽しそうなクラスで安心したよ。」

「ところで君・・・文と知り合いなの?」

「え、まぁ。さっき助けてもらってからちょっと仲良くしてもらって・・・どうして?」

「いや・・・。文はいい意味でも悪い意味でも目立つからね。特に夏越くんや弓直さんと一緒にいる時のあの生徒会トリオはこの学校一番の有名人だよ。だからちょっと驚いたんだ。」

有名人か・・・。何かわかる気がする。あの三人は何か僕らとは違うオーラを感じるし、そして何より人目を引く容姿を持っている。やっぱりただ者じゃないんだ。

「そろそろ鐘がなるよ、結局授業をしないままになっちゃったね。」

そう水野君が言った途端、いきなり激しいロック音が鳴り響いた。

「なに、コレ!」

「あぁ、この学校の鐘は日替わりで生徒が鳴らすから何を鳴らしてもいいんだ。多分今日の担当は中谷だから一日中ロックだな」

・・・ほんっとに先が思いやられる。

 

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