お誘い

 

 

 

 

パチ・パチ・パチ・・・・・。

 

とても不思議なことがある。

 

パチ・パチ・パチ・・・・・。

 

この音が響くと、必ずあの人の背中がわずかに揺れること。

規則正しいパソコンのキーを打つ音が、少し乱れること。

 

 

とても、不思議なことがある。

 

 

 

「・・・センさん、また切ってるの?」

その音を、デカルームに響かせてる張本人は、そう声をかけるとゆっくりと振り返った。

「ん・・・、切ってるの」

「でも、そんなに切ったら痛くない?」

「・・・・・・・いや、少しでも伸びてるとさ・・・」

「え?何?」

「ううん、なんでもない」

そう言ってセンさんは自分の綺麗に揃えた爪を見詰めた。

もうセンさんの爪は、白いところがほとんど無くて深爪だと言っていい程だ。

切りすぎだよ、どうして、そんなに?

「ウメコ、やすり持ってない?」

唐突にそう聞かれて、少し驚きながらもあるよ、と持っていた爪やすりを取り出してセンさんに渡した。

するとセンさんは器用にそれで自分の爪の先にやすりをかけた。

わぁ、うまい・・・。

綺麗な形の爪が、更に綺麗に整われていく。

そしてそれをかけ終わると、センさんは急に変な行動に出た。

その綺麗に整えた自分の爪を、手のひらに押し付け始めたのだ。

「な、何してるの?」

「んー、・・・・・少し痛いかも」

「痛いか確かめてるの?」

「うん。・・・ウメコ、あれ持ってない?・・あれ」

「あ、あれって何?」

「あれだよ・・・あれ、んー・・・ま、まに・・・」

「・・・マニキュア?」

「そう、それ!」

「え・・・使うの?」

「うん、少し貸して?」

ええ?センさんそんな趣味が???

少し不安に思いながら、化粧ポーチの中からピンクのマニキュアを取り出す。

すると、センさんにそれじゃない、と制された。

「透明なのがいいんだけど・・・目立たないの」

「・・・ふうん?」

言われたとおり透明なマニキュアを取り出すと、センさんはそれを受け取って爪の先にだけちょっとつけた。

そして、ふーふーと乾かして、乾いた爪の先をまた手のひらに押し付けた。

「うん、おーけー」

「・・・何が?」

「よし、痛くない」

「え〜?私にも触らせて」

「・・いいよ」

「・・・・・うわ、なに、コレ」

センさんの爪は、本当に綺麗に整っていて、しかもマニキュアのせいでまったく痛みがない。

こんなの爪じゃないよ・・・女の子のよりも綺麗なんだもん。

「痛くない?」

「うん、全然」

そう答えると、センさんは満足そうににっこりと微笑んで。

 

ふいに。

 

「これで・・・・いい?」

 

爪に息を吹きかけながら、そう本当に本当に小さく小さく小さく呟くと。

やっぱりまたいつものようにパソコンを打つ音の乱れたあの人が、急にくるりとこちらを振り返って。

無言のまま、少し不機嫌そうな顔でゆっくりとこっちに近づいてきた。

 

「え、どうし・・?」

聞こうとするより先に、彼は目の前にある、

さっきまでセンさんが使っていた爪きりとやすりを少し強引に掴み取ると。

 

「・・・・・・どうやって、使うんだ?」

そう小さく呟きながら、デカルームの隅にある椅子に座り込んで、

四苦八苦しながらパチ、パチ、パチと爪を切り始めた。

それは大変そうだったけど、でもやっぱり最後には彼も自分の手のひらに爪を押し付けて。

 

 

 

「うん・・・これならひっかかないな・・・・・・」

 

 

 

そう、満足そうに、横顔だけで笑っていた。

なんか、そんな顔の彼は、見たことがなくって。

少しばかり驚いていると。

 

「ふふ・・・」

ふと、密かに押し殺したような笑い声が聞こえて、隣を見た。

すると、こっちも今まで見たことも無いような、

ほんとに、本当に

優しい瞳のセンさんが

凄く。

物凄く、嬉しそうな顔で微笑むから。

 

 

 

私は、訳もわからないままに、首を傾げるしかないんだけど。

でも、二人は視線を交わすことも無いまま、

でも、二人とも同じように自分の爪を眺めて、どこか楽しそうな顔をしているから。

 

 

とても、不思議だけど。

私まで、楽しくなることがある。

 

 

とても、不思議だけど。

わからなくて、いいことだ。

二人だけが、知ってればいいのかもしれないね。

 

 

「よかったね」

にっこりと微笑んだ私に、センさんはまるで子供のような照れくさそうな顔で

一言「へへ」と笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また別の日。

 

パチ・パチ・パチ・・・・・。

 

とても不思議なことがある。

 

パチ・パチ・パチ・・・・・。

 

この音が響くと、必ずあの人の背中がわずかに揺れること。

規則正しいパソコンのキーを打つ音が、少し乱れること。

 

でも。

 

今日は、彼は全く爪きりに興味を示さない。

すると、センさんも諦めたように、小さくため息をつく。

「・・・・振られた」

がっくりと項垂れた彼を、慰めるのが私のお仕事。

 

 

それも、凄く楽しい私のお仕事。

 

わからないから、いいのかもしれない。

「ウメコ〜・・・・」

「よしよし」

センさんは、そのときは私にだけ甘えてくれるから。

でも、そんなときは何故か彼の視線が痛いけれども。

そして、何故か急いで爪切りを取りに来てしまうから。

 

とても、不思議なことが・・・・ある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき>

意味、わかりますかね・・・?

まぁ、たまにはこういうテイストも。

爪を切ることが、二人の夜のお誘いということなんです。

爪を切ってて思いついたんですけど。

ほら、痛いじゃないですか、切ってないと。

で、デリケートなとこだからね(笑)

どうぞあの長い指で慣らして、そして啼かして欲しいですね・・ふふ(下品)

宝児が切るのは背中とかにしがみついたときひっかかないようにね。

宝児が切り始めたら、OKっていうお返事なんです。

あースランプ・・・・・。

あとしゃべってるのはウメコです(念のため)

彼っていうのは宝児です(念のため)

セン様は、セン様です(何)

 

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