<プロローグ  空から降る少年とホワイトハウス>

 

 

そこは平凡な住宅街の一角。しかし同じ様な形の家が建っている中で一際目立つ白い家がある。その家は英語の「L」の字の形をして、二階建ての屋根は真っ赤な赤いレンガでできている。「L」のちょうど角に当たる部分には大きな庭があり、そこにはトマトやらさやいんげんなどが実っている自家菜園がある。

おや、その庭に誰かいるようだ。その庭にいる人物は背の高い黒髪の男で、何か紐のようなもの(鞭のようだ)を操っていくつもの缶を鞭でまるめ取り器用に箱に投げ入れている。何かの特訓だろうか?しかしその手際は見事で、缶はまるで吸い付くように箱の中に収まっている。その男の真上のベランダにも誰かがいる。そのベランダも例の如く真っ白で、そこにあるテーブルや椅子までもが白い。白に囲まれながらそのベランダにいたのはほとんど金に近い茶髪のきれいな顔をした男か女かわからないような人物だった。茶色の犬を両手で持ち上げてくるくる楽しそうに回ったり犬を撫でたりしている。時折犬に話しかけて、一人でうなずいたり笑ったりしているのでまるで犬と会話をしているように見える。とにかくその風景はとてもかわいらしく、和やかなものだった。たまに吹く風が庭の木々を揺らし、白い家は時々ミシ、と音を立てる。それはどこにでもあるような穏やかな光景である。しかしそんな平和な空気は一つの叫び声によって一瞬にしてぶち壊された。

「赤字だぁぁぁ!!!!!」

かなりの大声にベランダの人物は危うく犬を落としそうになったし、庭の青年はまるめとった缶を自分に当てそうになった。ともかく二人ともその我が家から飛び出してきた声の持ち主の下へ向かって走り出した。途中の階段で二人は合流して、おそらくリビングにいるであろう人物の元へと急いだ。二人のうちの片方は心配を胸に、もう片方は怒りをあらわにして。そしてリビングに着いた瞬間二人は同時に言葉を発した。

「霧都!大丈夫?!何があったの?!」

「馬鹿霧都!!!いきなり大声を出すな!!!!!」

その正反対の2つの言葉に霧都と呼ばれた人物は深く椅子に腰掛けて机にうつぶせになっていた顔をムクリ、とその二人のほうへ向けた。スモーキーグレイの長い髪がサラリと背中を撫で美しいとしか表現できないギリシャ彫刻のような顔が二人に向けられる。そんな霧都は都合よく最初の言葉だけしか聞いてないふりをしながらうなだれて、一言言った。

「今月・・・赤字なんだ・・・・」

その言葉に他の二人は顔を見合わせてまたか・・・とあきれ顔をした。そしてその気まずい沈黙を破ったのはさっきの黒髪の青年だった。その青年はため息を一つして、もう一人の茶髪の人物に向かいなおして言った。

「ほっとけ朔也・・どうせいつもの発作だろう・・・」

発作、などと病気扱いされた霧都は少しむっとした顔になったが、霧都が何か言う前に茶髪の先ほど朔也と呼ばれた人物が言葉を発した。

「丁〜!そんなこと言っちゃ霧都がかわいそうだよ。霧都はこの会社の社長として俺達のために頑張ってくれてるんだから・・・。霧都?俺でよかったら力になるから何でも言ってよね!」

犬を小脇に抱え可愛らしい微笑を浮かべる朔也を霧都は抱き寄せて大げさに喜んだ。朔也の抱えていた犬は二人に挟まれて苦しそうにもがいてトスンと床に避難する。

「あぁ〜!朔也は何て優しいんだ!それに比べて・・丁の冷血漢!!!」

そう言いながら霧都は朔也の肩越しに丁という青年をにらみつけた。丁はその視線を思いっきりかわして、

「じゃあ・・・どうしろってんだ・・・馬鹿霧都」

とどこか遠くを見ながら冷たく言い放った。その言葉に霧都は子供のように頬をふくらまして抱きしめたままの朔也にむかって叫んだ。

「朔〜!丁がいじめるよ〜!ひどいよ・・・。俺はこんなにがんばってるのにぃ〜!!!朔からもなんか言ってやって!」

その言葉を受けて朔也は霧都の腕から離れて仏頂面の丁の正面に立った。

「だめじゃない、丁!霧都をそんな風に言って。霧都だって俺らのために苦労してくれてるんだもん。話ぐらいちゃんと聞いてあげようよ、ね?」

首をかしげて少し上目遣いで自分を見つめてくる少年に丁は「うっ・・」とか呻きつつ後ずさりをした。どんどん距離をつめてくる朔也の顔をまともに見れずに頬をそめる丁を、横目でうかがう霧都の表情はとても楽しそうだ。

「それに・・・丁なら赤字なんてすぐになんとできるんかでしょ?俺はわかってるよ♪丁が困ってる人をほっとけるわけないもんね」

にこっと微笑む小悪魔を前に丁は霧都に向けた表情とはまったく違う優しい顔をして、「任せとけ」と言った。霧都の眉がピクリとひそめられたのは言うまでもない。

「ほ〜ら、朔が言えばすぐこうだ。社長の言うことなんて聞きやしないんだから!だいだいな、任せとけなんて言ったってお前に何とかできるんならやって見せて欲しいものだな」

霧都の嫌味たっぷりな言葉に丁はフン、と鼻を鳴らした。朔也はまた始まったと二人の間でオロオロしている。

その時だった。不穏な空気を打ち破ってバッタン!、とドアを開ける大きな音がすると共に声が響いてきたのだ。

「やっほ〜!皆さん、お元気かなぁ?」

やけに高い声の主が三人のいるリビングに現れたときにはもう既に霧都の怒声が飛んでいた。

JOKER!戸を開けるときは静かに開けろっていつも言ってるだろ!木がすり減るじゃないか!」

霧都の訳のわからない文句を片手を挙げて制し、朔也に投げキッスをしつつ、丁とは軽い挨拶を交わしながらそのJOKERと呼ばれた男は慣れた動作でリビングの白いソファに座った。

それにしてもこの男、妙な格好をしていて全身が真っ黒だ。真っ黒の髪の毛から覗くのは鼻と口だけで、目は長い前髪に覆われていて少ししか見えない。首を覆う大きな襟の黒いコートをひざ下まで垂らし、そのコートの下でさえ黒いズボンをはいている。手にも真っ黒の手袋をしてその手に握られているのは黒い大きなバック。

「おい、依頼か?依頼なんだろ?依頼って言ってくれ!」

「あ〜うるさいうるさい!あんたの『赤字だ〜!』って言う叫び声はそこの角まで響いたぜ・・・。ま、社長さんの期待通り依頼をもってきたぞ、喜べ」

霧都のまくしたてにうんざりしながらJOKERは大きな大理石のテーブルに黒いバックを置いた。

「んじゃま、今回の依頼はな・・・」

JOKERがそう言いかけた時、朔也が大きな声で叫んだ。

「なにか飛んでくる!!!!」

「何?!」

ドッカ〜ン!!!すさまじい音と共に空から何かが降ってきた。

「何事だ?!」

朔也を全身でかばいつつ、丁は腰からさっきの鞭を取り出した。そしてその音のしたほうへじりじりと進んでいく。少し進むと、白い壁がこなごなになってそこらへ散らばっている。上を見上げれば赤いレンガに中くらいの穴が開いていて、その真下になにか物体がうごめいている。

「来るな!朔!何か動く物体だ。そこから俺がいいと言うまで動くなよ!」

「うんっ」

朔也の返事を確認すると丁は少しずつその物体へ歩いていった。なにか服が見える、人間か?丁がそう思ったとき・・・

「あ゛〜!!!!!お前なんてことしてくれたんだ!家を壊しやがって!弁償しろよ!一生かかっても働いてこの家を直せ!わかったな!」

その降ってきた物体をぐいと自分のほうへ引き寄せ、首根っこをつかんでそう怒鳴る霧都に一同は危ない!とかよりその降ってきた人間に同情した。

「あ・・・コレ、人間だ」

やっと我に返った霧都は自分の下で伸びている人間を瓦礫から引っ張り出して顔を見た。その人物はまだ幼さを残す少年で、少し傷ができてるものの、他に大きな怪我はなかったし息もちゃんとしていた。

「誰?・・・こいつ」

「さぁな・・・見たとこ敵じゃなさそうだが・・・」

そういいながら丁もその少年に近づいて、観察を始めた。

「丁・・・俺もそこ行っていい?」

「・・・いいが、俺の隣に来い」

「うん、わかった」

朔也も足早に駆け寄ってその現場に到着する。そして、あることに気づいた。

「この人・・・何か言ってる」

「何?!」

「『師匠が殺される』って・・・」

「殺されるって?!一体こいつ・・・」

「とにかく・・・手当てだ」

 

今、この少年の登場によって3人の運命が大きく変わり、何かが起ころうとしている。

そう、このホワイトハウスで・・・。

 

<続く>

 

 

 

 

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