「ね〜蛮ちゃん、たなばたってな〜に?」

「あぁ?」

それは蛮と銀次が簡単な依頼で少しばかり儲けて

ここぞとばかりに1週間分の食べ物を買いだめし終わって車に乗り込んだ所だった。

おそらくもうすぐ七夕が近づいてきているので

買出し先のスーパーにでも笹と一緒にでかでかと七夕の広告でもがあったのだろう。

「ね、な〜に?」

「あ〜うっせぇ!運転中だ、邪魔するな!」

蛮の服にまでしがみ付いて答えを求める銀次に最初はうっとうしがっていた蛮だが

ふとピン!と、ある事を思いついた。

「銀次・・・七夕っていうのはなぁ・・・」

「うんうんっ!」

「短冊に自分の大好きな奴の名前を書いて、

天の神様にそいつと自分を幸せにしてくださいってお願いして笹に吊るすんだ」

「好きな・・・人?」

蛮の嘘の答えに銀次は唸りながら真剣に考え込んでいる。

一方蛮はその銀次の様子を横目で見ながら、複雑な思いを抱いていた。

蛮がそんな嘘を言ったのは他でもない自分のためだ。

蛮は最近自覚していた。

銀次に特別な感情を抱いている自分自身を。

しかし抑えられない感情の裏で葛藤する自分もいた。

あいつは男で相棒で誰よりも大事な存在。

好きだと伝えて嫌われてこいつが去っていってしまうくらいなら・・・。

あまりにも蛮らしくない考え方に自分でも苦笑を漏らす。

でも銀次はそうまでしてでも手放したくない存在だった。

自分を闇から救い出して暖かい光をくれた唯一の人。

もうこの光を失いたくない・・・そう強く思っている。

だから、蛮は自分の思いを隠すことにした。

銀次だってこうみえて好きな女くらいいるだろう。

好きな奴をそうやって知って自分の思いをかき消そうという蛮の決断だった。

銀次の恋ならきっと笑顔で応援してやれる、そういう自信もある。

(こんな感情捨てるにはちょうどい時期だ・・・。都合よく利用させてもらうぜお二人サン?)

蛮は出番を明日に控える天に光る星に薄く笑った。

 

その日は朝から横殴りの風にまじって雨が降りだした。

しかしそんな気候とはおかまいなしにホンキートンクには大きな笹が用意されていて、

夏美やレナが嬉々として飾り付けをしている。

もちろん例によってゲットバッカーズの二人はそこにいた。

銀次は夏美たちに混じってピンクや黄色の折り紙で作った飾りを一つ一つ丁寧に付けている。

ときどき「蛮ちゃん!みてみて!きれいでしょお〜?!」などと

カウンターでその様子をコーヒーを飲みながら見ている蛮に声をかける。

蛮はその言葉に片手を挙げて軽く返事をする、そんな普通の光景だった。

しかし蛮には決意がある。

誰の名前が銀次の短冊に書かれようともきっと笑顔でいること。

笑顔が無理ならせめて普段通りでいること。

「興味ねぇよ」と振り切ってもいい。

自然とコーヒーカップを握る手に力が入る。

と、その時。

「わぁ、銀ちゃん可愛い短冊v」

「へへv」

蛮はとっさに振り返ってその短冊を見た。

確かに笹にはまわりがきれいに縁取られている黄色の短冊がある。

そこには汚い字で

『しど・カヅっちゃん・マクベす・ぽおる・夏美ちゃん・レナちゃん・ヘぶんさん・そのほかの

おれに出会ってくれたすべての人が辛せになれますように』

そう書かれていた。

幸せの漢字が違うとかカタカナ書けないのかとかいろんな考えがよぎったが

まず蛮は自分の浅はかさを呪った。

そうだ銀次ならこう書くことも簡単に予想できた。実に銀次らしい短冊だ。

でも裏腹に少し安心した自分がいたことも否めない。

知らないままの方がよかったのか、どうなのか・・・。

ま、この想いもしばらくは保留だな、そう思ってもう一度銀次の書いた短冊に目をやった・・・

が、蛮はあることに気づいた。

(あれ?俺の名前がねぇ・・・)

何度見ても無い。

そんなはずは・・・

「あ、何でわざわざあんなとこに短冊下げてるの?銀ちゃん」

夏美が指差す方向は笹の葉のてっぺんだ。

蛮の目も自然とそちらを向く。

そこに先ほど見せたのより小さな紫色の短冊が揺れていた。

「あ・・・いやぁ、別に・・・」

カラン カラン

銀次がそう言った途端ホンキートンクの扉が開いた。

そこには見慣れたヘブンの姿が見える。

「あら、大きな笹・・・キャッ!」

ヘブンが店内に入ると同時に店内に強い風が吹きこんできた。

「あ!」

銀次が突然大きな声をだして外へ飛び出していった。

「銀次!何やってんだあいつ!」

蛮もとっさに銀次を追いかけて雨の中へ飛び出していった。

 

強い雨が顔に当たる。

しかしそんなことは気にせず蛮は走り続けた。

あともう少しで追いつけそうな銀次の後姿に向かって叫んでみたが何故か銀次は振り返らない。

何があったのか、

もしかして誰かに操られているのか、

でもそんなことより銀次を止めて連れ戻したい。

銀次がどこか遠くへ行ってしまうような気がして蛮は必死で追いかけた。

蛮がある曲がり角を曲がった時、銀次が突然立ち止まってその場にしゃがみこんだのがみえた。

しかもそこは道路の真ん中で、銀次めがけて車が走ってくる。

「危ねぇ!」

蛮は力を振り絞って銀次のもとへ駆けていき、何とか銀次をだきかかえて道路わきの茂みに倒れこんだ。

「な〜にやってんだよ・・・銀次・・・」

「蛮ちゃん・・・」

少し泥ははねたものの、銀次は無傷だ。

蛮は銀次の下敷きになったためズボンは泥でぐちゃぐちゃだけど、

それでもいいと思えるほど銀次を無事に救えた事に深く安堵した。

その一方で銀次は蛮のひざの上で顔を少し見つめ、そしてうつむいた。

「どうした?銀次。何があった?」

「・・・」

うつむいたままこちらを見ない銀次になんかあったのかと顔を上げさせてみれば、

銀次の大きな目に涙が溢れていた。

「お、おい・・・どうした?」

「蛮ちゃん・・・」

「ん・・・?何だ?」

「・・・コレ」

そう言って銀次ガ差し出したものはさっきの紫色の短冊。

銀次の手の中でそれはぐしゃぐしゃになって泥だらけになっていた。

そこで蛮は悟った。

さっきの強風で笹の一番上に吊り下げてあったこの短冊がとばされてしまい、それを銀次はおいかけてきたのだ。

「蛮ちゃん・・・こんなぐしゃぐしゃになっちゃたらカミサマはお願いかなえてくれないのかなぁ・・・?」

「銀次・・・」

銀次の涙が蛮の手のひらに落ちる。

そんなに大事な奴なのか、この短冊に書いた人物が。

こんなに一生懸命追いかけてくるほど。

蛮は何だか自分の胸がズキン、と痛むのを感じた。

それでも精一杯出来るだけの優しい顔をして、銀次の頭をなでてやった。

「銀次、心配するな。大丈夫だから、泣くんじゃねぇ」

銀次の泣き顔を見ていると見ている自分が悲しくなってくる。

お願いだから泣き止んでくれ・・・そうだ。

「銀次、ぐしゃぐしゃになってたって字が読めればきっと思いは届く。絶対だ、俺が信じられないか?」

「・・・ううん」

「だから、それ見せてみろ」

「・・・・ダメ」

「あぁ?!」

「だって・・・」

蛮の中には早く短冊を見てしまえば今感じているこのつらい想いが

何とか消えていってくれるのではないかという考えがあった。

なのに銀次は何故か見せるのをためらっている。

蛮がその短冊の中身を見るのをどんな思いで待っていたか。

蛮の中でついにずっと我慢していた気持ちが爆発してしまった。

「見せ〜ろ〜!!!」

「ヤダ〜!」

銀次もさっきまで泣いていたのが嘘のように激しく抵抗する。

「よぉし・・・こうなったら・・・」

 

・・・キラリ

 

「わぁ〜俺の大好物がいっぱいだ〜vトロもいくらもアナゴもある!」

銀次が邪眼で幻覚を見てる間に蛮はそっと銀次の手から紫色の短冊を引き抜いた。

確かにぐちゃぐちゃになっていたけど、

外の色がついている比較的丈夫な面に守られて銀次がお願いを書いたという白い部分は 

泥で汚れながらも何とか字は読むことが出来た。

「どれどれ・・・ん〜と・・・」

汚い字ながらきっと銀次なりに一生懸命丁寧に書いたつもりなのだろうその字を、

一文字一文字大事に読んでいく。

「い、つ、あ?いや違う・・・い・つ・ま・で・も・・・」

 

「ねぇマスター、あたし銀ちゃんがあの紫色の短冊に書いてた願い事、知ってるんです」

「ほぉ、夏美ちゃん、いいとこ見てるね〜」

「それで?銀ちゃんはなんて書いていたの?」

「え〜と・・・」

 

『いつまでも蛮ちゃんのそばにいたいのです』

『蛮ちゃんが辛せでいっぱいになる日が来ますように』

『誰よりも蛮ちゃんが』

 

 

『大好きです』

 

 

ふと銀次が目を開けると

なにか暖かいものに抱きしめられているのに気づいた。

(あ、蛮ちゃん俺に邪眼使ったんだ)

(ってことはたんざく見られちゃったのかな)

(あ〜あ・・・絶対嫌われちゃうから見せたくなかったのに)

(でも、何で蛮ちゃん俺を抱きしめてるんだろう)

聞きたいことやいいたいことは沢山あった。

でもあんまりにもその抱きしめられている感覚が心地よくて

銀次は何も言わないで身を委ねて目を閉じた。

 

雨は降り止まない。

もう服だってびしょびしょだ。

雨の音しか聞こえない。

でも何も言わずに二人は抱き合っていた。

そして

 雨が、やんだ。

 

「俺もお前が好きだ」

突然の告白だった。

でも銀次は目を閉じたまま黙っていた。

心にじんわりとその言葉が染み込んではじめて

銀次はそっと目を開けた。

蛮の端正な、しかし今はどことなく不安げな顔が目の前にある。

銀次は少し微笑んで

「俺も世界で一番大好き」

そう告げた。

 

いつの間にか二人の後ろに大きな大きな虹がでていた。

 

 

その夜・・・

「あれぇ?見てくださいマスター!こんなとこに短冊がもうひとつ増えてますよ?
誰が書いたんでしょうね?」

「ん?こりゃドイツ語だな・・・ということはさっき来た時蛮が書いていったんだな・・・どれどれ?」

「マスタードイツ語わかるんですか?」

「・・・・・・わからん」

 

 

die ewige mittenand

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<コメント>

長い上に中身のない小説・・・。

最後のドイツ語は「ゲットバッカーズは永遠に一緒」みたいな感じです(多分)

二人の告白編、でした〜!

 

 

 

 

 

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