夢の中へ

 

 

 

 

ない

ない

ないないない。

 

なんで、ないんだ。

 

 

 

「ホージーさん、不機嫌?」

ウメコが俺の顔を覗き込んで不思議そうに言った。

「いや、そんなことはない。人のことより自分のこと。ほら仕事、仕事」

なによう心配してあげてるのにぃー・・・頬を膨らませたウメコがそう呟きながら俺の傍を離れていった。

すまないウメコ、俺本当に不機嫌だから今近くに居ないほうがいい。

だって、あれがないんだ。

どこを探しても、ないんだ。

パトロール中だって初めてだ、抜け出してまで探したのは。

なのに、なかった。

どうしてだ。

 

探し物はなんですか

見つけにくいものですか

 

頭の中であの歌がリピートされる。

見つけにくいも何も、どこにもないんだ。

いらいらとしながらキーを叩く。

ああ、いらいらする。どうしてないんだ。

くそ・・・・・・。

 

 

「相棒、どうしたん?何でそんなに怒ってるの」

「ああもうお前まで、なんでもないったら」

「・・・・・・・あっそ」

いらいらしてるせいでついキツイ口調になってしまった。

すまん、バン。今回は俺が悪いよ。

でもな、いらいらするんだ。

ずっと欲しかったのにないのって悔しいものだ。

しかもあんなに目に焼き付けられては・・・・ああ、欲しい。

 

休むことは許されず

笑うことも止められて

はいつくばって はいつくばって

いったい何を探しているのか

 

本当だな、俺馬鹿だ。

あんなもののためにいい大人がこんなにいらいらするなんて・・おかしい。

異常だけど、欲しい物は欲しい。

なのにどこにもない、どうしてだ。

おまけにあいつはパトロールから帰ってこないし。

こんな夜更けまでいったいどこに行っているんだ。

馬鹿、馬鹿・・・。

・・・むかつく。

 

探すのをやめたとき

見つかることもよくある話で

踊りましょう、夢の中へ

行ってみたいと思いませんか?

 

「まだまだ探す気ですか♪」

え?

「それより僕と踊りませんか・・・?って気分なんだよ俺は。・・・宝児」

なななな、何・・・?

「っ・・・・・・セン!」

こんな遅くまでどこ行ってた、

本当に何やってるんだボスが心配してたぞ

もう皆帰ってしまったんだ、俺だってもう帰りたかったのに・・・

そんな言葉が一気に頭の中に浮かんだけれど、口の中に押し込まれた物体に一気に目を見開いた。

あ、甘い・・・・・・・・・・。

「おいし?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おいしい」

「そ、よかったね」

にっこりわらってセンは俺の手の中にたくさんの小さい包みを渡してくれた。

「凄く、おいしい」

「うん、だろうねぇ」

今この口の中にあるもの。

それは俺がずっとずっと探してたもので。

パトロールを抜け出してまで

あとお昼休みに歩いて近くのコンビニまで行って探したりしたけど

でもそれは誰にも知られてないはずで。

尾行してたとかなら別だけどセンがそこまでするはずないんだし。

なのにどうしてセンはこれを持ってる?

そしてどうしてこんなに手が冷たいの、

息が荒いの、

どうして、馬鹿。

「これ、探したよ」

「でも」

「・・・うん?」

「どうしてこれをお前が」

「愛」

ふふ、と笑いを漏らしてセンはまたひとつ包みを破いて俺の口に放り込んだ。

「すっごい・・・・・・・・うれし・・・」

「そう、その顔見れて俺も幸せ」

「マジ、おいしい」

「宝児がね」

「ん・・?」

俺の前髪を人差し指で遊びながら、センは回想するようにゆっくりと話し始めた。

「宝児が、一回だけ言ったんだよ」

「・・・?」

「そう、昨日かな。CM見てさ」

「CM・・・」

「『・・・これ、食べたい』」

「え・・・」

「ちっちゃく、凄いちっちゃく言ったよね」

「言った・・っけ?」

「言ったよ、しかも俺に聞こえないように小さく、言ったよね」

「それで・・?」

「そう、俺は宝児を愛しすぎちゃってるからね。どうしても食べさせたあげたくなったわけよ」

「・・・・・」

「でももうもってるのかなと思って今日宝児を見てたらずっといらいらしっぱなし。

挙句の果てにはお昼休みに抜け出して、買ってきたのかなと思えば不機嫌顔で。

ああ、まだ見つけてないんだ、そう思ったら無性にあげたくなって」

「・・セン」

「売り切れ店続出、らしいね。このお菓子」

そう言ってセンは手の中の箱を出した。

『ミルキイ・キッス』抹茶味。

ああ、これ。

CMで一回見て、ずっと欲しくて。

でも、凄く小さく呟いたはず。

しかも一瞬のCMだったのに。

そんな俺の一言を覚えてて、そして買って来るなんて。

こんなことこいつにしかできない、この馬鹿にしか。

「馬鹿だな、お前は」

「愛ゆえに」

「ほんと、馬鹿」

「ところで宝児くん」

「ん」

「俺まだこのチョコ一個も食べてないんだよ君に一番に食べさせたくて」

「で・・?」

「食べたいな」

センの手の中にあるのに、自分では取り出さないチョコ。

俺に目で視線を送ってくる少し鋭い目。

ああ、わかってるさ。馬鹿の考えることくらい。

小さな包みを開けて、自分の口にチョコを放り込む。

そしてセンの頬に手を添える。

今日は寒くて誰も夜のパトロールに行きたがらなかった。

それを立候補したのはこいつで。

一緒に行くといったウメコを寒いからと言って宥めたのもこいつで。

車内暖房つければいいよと言ったのに、12月までは暖房つけちゃいけないってデカベースで決めてあるんでいいです。

なんてかっこよく言ったものの寒いだろうに。あの時はなんだこいつおかしいの、と思ったものの。

その証拠に頬が冷たい手も冷たい、馬鹿だな。

散々探し回ったんだろうな、俺だって散々探しても見つからなかったのに。

おまけに、唇まで冷たいだなんて、俺が暖めてやるしかないだろう。

口の中で少し溶けかけたチョコをセンの唇に当てて。

二人で奪い合うようにチョコと、お互いの唇を貪った。

「・・抹茶味、おいしいね」

「お前の口も同じ味・・・」

「新発売だからー」

「何言ってるんだか」

「食べたいって言って欲しいの」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・食べたい」

「で・・?」

「食べてやる」

そう言ってセンの唇にまた口を寄せて食べた。おいしい。

「はぁ・・・」

「ん・・・、おいしい」

「宝児、やらしー」

「おいしすぎるからいけないんだ、ぞ」

「それは光栄・・・」

「セン」

「ん?」

「・・・さんきゅ」

「どういたしまして」

笑うセンに抱きしめられるとまるで夢心地。

 

夢の中へ、行ってみたいと思いませんか?

 

探し物が見つかれば、夢の世界に来れるのか。

そもそもなんであんなにいらいらしていたのか。

チョコが欲しかった?

センが居ないのが寂しかった?

俺の探し物はチョコで。

センが居ないのも嫌な原因のひとつ。

でも今チョコなんて食べてないのに

抱きしめてくる腕の逞しさなんかにこんなにも喜んで。

・・・おかしい。

 

それとさっきからずっと言いたかったことがある。

女々しい、言いたくない。

でも、言いそう・・でも言うな、言っちゃ駄目。

「でもな」

あ、くそ。つい・・

もう、いいだろう。言うな・・・言っちゃ駄目・・・・・・なのに。言いたい。

「・・・黙って俺の前から居なくなるなよ」

どこにだって、俺を連れてけよ。

 

あまりの恥ずかしさにセンの胸に顔を埋めるとセンは笑いをこらえてるみたいに体を細かく震わした。

そして

「ロジャー」

あまりにもそう嬉しそうに呟いたもんだから。

俺は馬鹿だな、と呟きながらもまた夢心地。

 

夢の中へ

夢の中へ

行ってみたいと思いませんか?

 

こいつがいるところはどこでも夢心地。

オプションでチョコがついてると最高。

ん・・・?

 

チョコ<セン?

 

そう思うとなんか悔しくて頬を緩めっぱなしのアホ面のセンの鼻を思いっきりつまんでやって

バンとウメコにさっきのお詫びとしてこのチョコをあげようと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき>

11月11日実体験より(日記か)

・・・・いやごめんなさい、自分で探し当てましたよ・・・・・・・・・・・(悲)

『ミルキィ・キッス』例のあのチョコの名前をを少し変えてみました。

抹茶味、マジでなかったんだよ・・・!!!!

そして今食べながら書いてます。

夢心地〜♪(寂)

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